邪竜百年戦争オルレアンI−13


すると突然、頭上からガラスでできたバラが降ってきた。地面に落ちて割れるバラは輝く宝石のように石畳の道に散らばっていく。


「美しくないわ。この町の有様も。その戦い方も。あなたはそんなに美しいのに、血と憎悪でその身を縛ろうとしている」

「…サーヴァント、ですか」


ジャンヌ・オルタが警戒して声の主を睨む。
ふわりと唯斗たちの間に降り立ったのは、赤を基調とした服に身を包み、軽やかに肌を晒し、赤く膨らんだ帽子から美しいブロンドの髪を束ねて流す女性。その愛らしい美貌は微笑みを絶やさない。


「ええ、そう。嬉しいわ、これが正義の味方として名乗りを上げる、というものなのね!ですが、正直に言うと、私は今までで一番恐いと、本当は震えています」


しかし少女は真剣な顔になると、ジャンヌ・オルタを鋭く見つめた。


「それでも…あなたがこの国を侵すなら、私はドレスを破ってでも、あなたに戦いを挑みます」

「あなたは…?!」


少女の姿に、青いハットの騎士が驚愕の声を上げる。ジャンヌ・オルタは真名を知っているらしいサーヴァントにその名を尋ねる。逡巡してから、騎士は答えた。


「ヴェルサイユの華と謳われた少女。彼女は…マリー・アントワネット」


なんと、突如として戦場に降り立ちマシュに花咲くような笑みを向けた少女は、戦場など似合わない宮廷の王妃、マリー・アントワネットその人だった。さすがの唯斗も言葉を発せない。


「我が愛しの国を荒らす竜の魔女さん。無駄でしょうけど、質問をしてあげる。あなたはこの私の前で、まだ狼藉を働くほど邪悪なのですか?革命を止められなかった愚かな私以上に、自分は愚かな魔女であると公言するの?」

「…黙りなさい。あなたごときが、この戦いに関わる権利はありません」

「あら、どうして?」


鈴の鳴るような声で尋ねるマリーに、ジャンヌ・オルタは不快そうに顔をゆがめる。


「宮殿で蝶よ花よと愛でられ、何も分からぬまま首を断ち切られた王妃に、我々の苦しみが理解できると?」

「そうね、それは分からないわ。だから余計にあなたを知りたいの、竜の魔女」

「…なに?」

「分からないことは分かるようにする。それが私の流儀です。今の私に分かるのは、あなたはただ八つ当たりしているだけということ。理由は不明、真意も不明、何もかも消息不明だなんて、日曜日に出かける少女のようでしてよ?そんなあなたに向ける礼はありません」

「…いいでしょう、ならば、あなたは私の敵です」

「……そうね、ここは戦場ですもの、語らいはここまで。あなたは世界の敵でしょう?では、何はともあれまずはあなたが殺めた人々への鎮魂が必要不可欠。お待たせしましたアマデウス、機械みたいにウィーンとやっちゃって!」


マリーがそう言った途端、さらに別の気配が突然唯斗たちの前に現れた。金髪をたなびかせ、指揮棒を持った男の姿。アマデウスとマリーが呼ぶなら、それは当然、あの人物だけしか該当する英霊はいないだろう。


「任せたまえ。宝具『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』」


アマデウスがそう言った瞬間、突如として大音量のオーケストラの演奏が奏でられた。しかしそれはあまりにめちゃくちゃで美しく、しかし殺意に満ちていた。ジャンヌ・オルタたちも呻いて動きが止まる。
その隙に、マリーが動いた。


「それではご機嫌よう皆様。Au revoir!」


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