絶対魔獣戦線バビロニアI−3


そうして、ついに玉座の間にやってきた。ジッグラトの最上部で、南北方向に吹き抜けるような構造になっている。階段の上、天井から天蓋のシルクが垂れ下がる下に玉座があり、そこに座るのは見慣れたキャスター・ギルガメッシュだ。
しかし見る限り、あれは人だ。すなわち、生前の姿である。


「ふむ、来たか。皆の者、しばし席を外せ」


こちらに気づいたギルガメッシュはそう言うと、シドゥリを含めて人払いをした。
多くの神官が王の決裁を求めて待っていたはずだが、全員そそくさと玉座の間を出て行く。あっという間に唯斗とギルガメッシュの二人になった。


「こちらの我が相まみえるのはこれが初めてだが…フン、本当にただの子供ではないか」

「カルデアにいるのはサーヴァントのあなた。ここにいるのは生前のギルガメッシュ王。でも、千里眼によってカルデアの自分を通してすべて知ってるってとこだよな」

「無論。そのための召喚であった故な。貴様も知っていたようだが」


やはり、ギルガメッシュがカルデアの召喚に応じたのは、カルデアの状況を観察するためだったらしい。ギルガメッシュの千里眼は、異なる世界の未来すら見通すことができるのである。


「立香たちがここにいないのは、ウルクを守る結界に弾かれたから。俺がたどり着いたのは、カルデアで結んだ縁を通して敵としてカウントされなかったからだよな。で、俺が結界を通って市内に到着したことを察知したから呼び出してくれた」

「あぁ。して、貴様はウルク到着からここに来るまでの間にどこまで状況を理解した」


唯斗だけがウルク市内に入れたのは予想通りだった。ギルガメッシュもそれくらい唯斗が理解していることは当然と思っていたようで、続いて状況把握がどの程度進んでいるかを聞いてきた。


「シュメール文明を脅かす事象が起きていて、それによってすでにキシュやボルシッパは滅ぼされた。話を聞くに、北壁という防御ラインがニップルとイシンの間を通るようにして建築されている。恐らくバビロンやシッパールも滅びたんだよな。都市を滅ぼしている要因の一つは魔獣」

「ほお、そこまで理解していたか。及第点だ。貴様はジッグラトでの雑務に従じる栄誉をくれてやろう」

「…、まぁ、立香たちもウルクを目指すだろうから、それは構わない。一つだけ聞かせてくれ」

「なんだ、申してみよ」

「魔術王の聖杯はどうなってる?敵勢力がその力を振るっているのか、それともすでにあなたが回収したのか」

「聖杯は我がもとより作り出したもの、愚問にもほどがあろう」

「ウルクの大杯は魔術王のものじゃない。それとも、あのウルクの大杯を魔術王のものと同格に扱うことはあなたの信条に整合するものなのか?」

「…フン、一丁前な口はきけるらしいな。その不敬、特に許す。その通り、我の持つ聖杯は魔術王の贋作などではない。そして魔術王の聖杯については調査中だ。概ね検討はついているがな。しかし貴様らよそ者には関係のないもの。貴様には特別にジッグラトでの仕事を許してやるが、この時代のことはこの時代の者が対処する。貴様らに果たせる役割などない」


ウルクの大杯は、バレンタインのときにギルガメッシュ自らが話題に出していた。あれが魔術王のものであるはずがない。現代にも残ってバグダッドの博物館に展示されているのだから。
ということは、聖杯探索はゼロスタートと見ていいようだ。ソロモンの座標を知る手がかりになるこの特異点の聖杯を回収することが最大のオーダーである。
一方、ギルガメッシュはこの特異点の事態を自分たちだけで解決するつもりであるらしく、唯斗たちを部外者と考えている。
だが、そのわりに懐に入ることを許してくれたあたり、一考する余地もない、というほどでもないようだ。


「…分かった。立香たちと合流するまでは、とりあえずなんでも仕事はやる。一応、シュメール文字も読めるようにはしてきたし」

「では貴様はシドゥリの補佐を勤めよ。こき使うように言ってやる」


今はとにかく、立香たちと合流することこそが重要だ。まずはそれまで、できることをやるだけだ。
こんな出だしになるとは完全に予想外だが、恐らくギルガメッシュはシドゥリからこの世界の状況をあらかじめ聞いておくようにという意味もあってこの指示を出している。それならば、合流する前にできるだけのことを済ませておくことにした。

正直、アーサーと早速はぐれてしまったことは心細い。やられることはないだろうが、いつ合流できるか分からないというのはとてもストレスに感じる。
本当に一人でいることが下手になったな、と唯斗は自嘲した。


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