絶対魔獣戦線バビロニアI−4


シドゥリの補佐としてジッグラトの仕事をし始めた唯斗は、まず、世界の状況をシドゥリから教わった。聞いた内容は、これまでの特異点とはやはり桁の違う話だった。

まず、世界を滅ぼそうとしているのは魔術王の手先ではない。
「三女神同盟」という、三人の神霊によってこの世界は滅ぼされようとしており、女神たちは人類絶滅のためにそれぞれの方法でシュメール文明を攻撃していた。

まず一人は北東のザグロス山脈からやってくる土着の女神、イシュタル。天を翔る船という名の巨大な弓によって飛び回り、無差別爆撃を行っていくという。とはいえイシュタルはウルクの都市神、被害は大きいが人的被害はほとんど報告されていないそうだ。
二人目は正体不明の神霊サーヴァントであるらしく、アッシリアからアッカドにかけてのメソポタミア北部一帯を完全に支配下に置いている。魔獣を生み出し、大量の魔獣によってキシュを初め北方の都市はことごとく滅ぼされた。これに対抗するべく、バビロンを解体して建設した壁が北壁、通称「魔獣戦線」であり、半年にわたって魔獣たちの猛攻を防いでいるそうだ。
三人目はまったく正体不明らしく、自然を操り、ウル周辺のメソポタミア南端を閉ざしてしまった。ウルやエリドゥの街が密林に飲まれており、ユーフラテス河口の向こうは帰らずの森となった。

現代はティグリス川とユーフラテス川はイラク南部で一つになっており、合流してペルシア湾に注ぐ部分をシャットゥルアラブ川という。
数千年に渡る両河川の流れによって、堆積した土砂がだんだんと平野を形成していき、それによって海岸線が遠ざかったことで、現代のように両河川が合流することになった。
このころはまだ堆積が進んでおらず、両河川はそれぞれに河口を持っており、ユーフラテスとティグリスの間の海岸線はまだ人の手にあるようだ。

そしてギルガメッシュは、神から使わされた兵器であり友であるエルキドゥの死後、不老不死を求めて旅に出て、帰ってきた後の姿だという。

もともとギルガメッシュは神の血を引く人の王であったが、その力によって暴君となっており、神を否定した。神はギルガメッシュを神々の側へと戻すためにエルキドゥという兵器を生み出し、これを遣わせたが、あろうことかギルガメッシュとエルキドゥは友人となってしまい、ともにイシュタルのグガランナという怪物を討伐。神の使いでもあるグガランナを倒したことで、エルキドゥは神の怒りに触れて破壊されてしまい、ギルガメッシュはそれをきっかけに不死の霊薬を探しに旅に出る。
これが世界最古の英雄譚、ギルガメッシュ叙事詩の大まかな内容だ。

ギルガメッシュ叙事詩をはじめシュメール神話に語られる大洪水はその後、旧約聖書に受け継がれていく。

そうして一通り事情を聞いたところで、シドゥリの補佐として仕事にあたったが、意外にもギルガメッシュは唯斗をそばに置いてくれていた。カルデア、そしてこれまでの旅における唯斗の様子を完全に知っているためか、時折過去の特異点のことを聞かれることもあった。

レイシフトの翌日も、唯斗はギルガメッシュのいる玉座の下、シドゥリとともに控えて神官たちのひっきりなしの報告を聞いていたが、ふと、ギルガメッシュが唯斗の方を見下ろした。


「唯斗よ、貴様はどう思う」


話はティグリス川の治水事業に関することで、特に南寄りに分岐する支流沿いにあるギルスからの嘆願によるものだった。
現在はシャットゥルハイ川という運河になっており、ティグリス川から南に分岐してそのまま南下しユーフラテス川に合流する。
ティグリスとはそもそも流れが速いことを意味する言葉であり、ユーフラテスと違って高低差が大きく流れが速い。さらに、4月になると上流のトルコの山岳地帯における雪解け水が大量に流入するため、しばしば鉄砲水を引き起こす。そのため治水事業はユーフラテスより難しく、ウルやウルクなど大都市はユーフラテス沿いに位置していることが多かった。


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