絶対魔獣戦線バビロニアI−7


かろうじて玉座の間の様子が窺えるあたりまで下がったところで、アーサーが唯斗を抱き寄せる。


「あぁ、良かった。君の無事はパスとカルデアの観測で分かっていたけれど、それでも心配したよ」

「…ん、早めに合流できて良かった」


知らず、ずっと気を張っていたものがほぐれるのが分かった。アーサーの首筋にすり寄ると、マーリンがニヤニヤとしながら見ているのが気配で分かった。
玉座の間から戦闘音が聞こえ始めたのと同時に、唯斗はアーサーの腕の中からマーリンを見上げる。


「本当にマーリンなんだな」

『いやぁ、僕も驚きだよ』


すると通信からロマニも声をかけてきた。久しぶりな気がするが、唯斗のバイタルを確認していたであろうロマニは心配そうにはしていない。むしろ、ウルクに入れた唯斗の方は最も安全な場所にいたため、気にかける理由がない。


「そうとも。君の夢に勝手にお邪魔して以来だね、唯斗君。初めまして」

「まさかマーリンに会える日が来るとは…あれか?生まれる前だからサーヴァントになれるみたいな感じか?」

「その通り。生まれていないということは死んでいると仮定できるからね、強引にサーヴァントの要件を満たしてやってきた。といっても、強力な召喚者がいたからというのもあるんだけど」

「…ギルガメッシュか。神代の現役の王ってのはチートだな……」


どうやらマーリンはギルガメッシュが召喚したサーヴァントであるらしい。また、話によると、度々カルデアを助けてくれていたそうだ。

現在すべてを見通すアヴァロンの主であるマーリンは、現代まで生き続ける魔術師。こちらの世界のアーサー王であるアルトリアはアヴァロンに至る前の存在であるらしいが、アーサーは異世界においてアヴァロンに到達しており、こちらも本来は死んでいない。

それにしても、本当にアーサーとマーリンは声が似ている。似ているのに、マーリンの方は軽薄さが滲み出ていた。


「こちらのマーリンも、やはりマーリンだ。マスター、あまり近づいてはいけないよ」

「いや、いくらマーリンでも男には手出さないだろ」

「試してみるかい?」

「あ、戦い終わりそうだ。いったん戻ろう」


唯斗はふざけたことを抜かすマーリンを無視して、戦闘音が止んだ玉座の間へと戻るべく、アーサーから離れて歩き出す。扱いはこれでいいらしく、シドゥリもアーサーも気にせず唯斗と一緒に玉座の間へと向かい、マーリンも肩を竦めてついてきた。

戦闘はやはり終わっており、ギルガメッシュは玉座に座っている。


「つまらん。天命を帯びた者とはいかほどかと戯れてみたが、単なる雑種ではないか!我が手を貸す器でもなければ、我に使われる価値もない!」

「王よ、どうかお鎮まりください…!私には驚くべき力を持つ戦士に見えたのですが…」


シドゥリが諫め、マーリンも立香たちのところまで進んでギルガメッシュを執り成そうとしたが、ギルガメッシュは聞く耳を持たない。

ロマニは立香に事情を説明するよう指示したが、ギルガメッシュは「不要だ」と切り捨てた。ギルガメッシュはすでにこの世界に何が起きているか知っている。カルデアの自分を通さずとも、それくらいは理解していて当然だ。


「我はすべてを承知で『今の貴様らに用はない』と述べたのだ。貴様らはこの時代に現れた異物。いや、余分な要素だ。ウルクは我が守るべきもの。貴様らカルデアの力を借りるまでもない。よいな、くれぐれも、その程度の手駒であの女神どもと戦う、などと思い上がるなよ」


マーリンを通して、立香たちも三女神同盟のことは知っているようだ。しかしやはり、ギルガメッシュはカルデアの力を必要とはせず、自分たちだけで解決するという意志を覆さない。
これではいつまでも平行線だ、と頭を抱えそうになったときだった。


「王よ!ご歓談中に失礼いたします!」

「歓談などしておらぬわ!」


玉座の間に慌てた様子で兵士が駆け込んできた。兵士は伝令からの報告を告げる。


「ティグリス川の観測所から伝令!三女神同盟が一柱、女神イシュタルの天舟の移動跡を確認!ウルクに猛スピードで接近中です!」

「……はぁ、またあの愚か者か。懲りない阿呆なのか」

「王よ、イシュタル神はウルクの都市神であらせられます。いくら王といえど、そのように非難されては巫女所も立場がないと言いますか…」

「立場も何もあるか!あの女が一度でもウルクを守ったことがあったものか!どうせまたうっかり自身の寝所を破壊して父アヌ神に泣きつくのが関の山よ!まぁ、すでにアヌ神すら姿を消した今、一人取り残されて無様に泣き寝入りすることになるのがお似合いの結末だがな!ふはははは!!」

「なんですってーーー!?!?!?」


突然、天井を突き破って女性のサーヴァントらしき人物が玉座の間に乱入してきた。瓦礫が降り注ぎ、兵士たちが一斉に退避する。

あれが女神イシュタル、シュメール神話における最も重要な神の一人であり、金星を司る神だ。
金星信仰は世界中で普遍的に見られるものであり、日本でも明けの明星、一番星と呼ばれる。太陽と月に次いで明るい天体であることや、地球との位置の関係で最も長く空に留まる星であることから、太陽や月への信仰と同様に、人々を見守り導く存在として敬われる。


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