絶対魔獣戦線バビロニアI−9


「本当に一直線でここまでやってくるとはな。噂好きの町娘もかくや、と言ったところか」


辟易としたようにするギルガメッシュに、イシュタルはマアンナから降りて睨み付ける。


「大人げないのはそっちの方よ!黙って聞いていれば言いたい放題、もう頭にきた!」


まさかこうして神話の光景を見ることになるとは、と呆然としていると、イシュタルは立香に気づく。


「ってそこの人間は…!」

「ほう?貴様、もしやあの女神と遭遇済みか?」

「あのときはどうも…」

「これで後腐れなく全員殺せるわね!あの金ぴかと一緒に撃ち殺してあげる!!」


なんと立香はイシュタルとすでに出会っていたらしい。なんという引きの良さだ。


「ふははははは!!よいぞ、興が乗った!一時のみ、我とともに戦う不敬を許す!いくぞカルデアの、女神退治だ!」

「なっ、おい立香、本当にイシュタルと戦う気か!?」


ギルガメッシュとともに臨戦態勢になる立香に、唯斗は慌てて止めようと立香のところまで走る。すぐにアーサーも警戒して抜剣しながら唯斗のそばを走る。


「え、だめだった?」

「だめも何も、イシュタルはメソポタミアで唯一、どれだけ支配者が変わっても崇拝され続けた女神だぞ!?それは必ずしも最高神たるものではなかったけど、人々にとって畏怖と同時に身近さや親近感をもって愛され続けた女神だ。ギリシアのアフロディーテ、ローマのヴィーナスに継承された、奔放だけどどこか憎めない女神像の原型でもある。しかも限りなく霊基が神のそれに近い正真正銘の神霊だ、戦っていい相手じゃない!」

「あら、そこの小綺麗なのはわきまえてるのね。アシンヌとしてエビフ山に招いてあげましょうか?」

「……女装はちょっと………」


女装した青年が神殿に仕えていたという逸話もあり、そうした青年をアシンヌという。イシュタルは大して興味もなさそうに「そう」とだけ返した。


「権能を与えられすぎて濁ったまだら模様のような人格をしておるだけの駄女神に仕えるなど誰でも嫌がろう」

「誰が駄女神ですって!?あんたもそう思うわけ!?」

ギルガメッシュが余計なことを言ったため、ギルガメッシュのそばに控えていたところを見られている唯斗にも矛先が向く。唯斗はつい、降参ポーズのように両手を挙げて答えた。


「権能がたくさん与えられているのは、それだけ人々が自分の身の回りのものにイシュタルを感じたかったからだ。様々な事象の理由をイシュタルに託して、少しでも供にあろうとした。人間的な側面が描かれるのは、それだけイシュタルに人々がそばにいて欲しかったことの現れだ。俺は、それが神格を損なうものだとは思わない」

「フン、歴史オタクめ」


ギルガメッシュは呆れたようにしたが、イシュタルは面白そうに笑う。


「なるほどね。面白いじゃない。いいわ、あなたは下がってシドゥリを守っていなさい。そこの金ぴか王と無礼者を私が殺すのを見ているといいわ」

「ええ……」

「よい、唯斗は下がっていろ。玉座の損壊を防ぐことに徹するように」


ギルガメッシュにもそう言われては従うほかない。
唯斗はアーサーとともにシドゥリのところまで下がると、立香たちとイシュタルの戦闘を見守ることになった。

結局戦闘は避けられなかったものの、ギルガメッシュと立香たちが共闘し、さらにイシュタルはなぜかアナを見て冷静になってジッグラトを出て行ってしまった。
本当に嵐のような女神だった。

イシュタルに襲われるのは珍しいことではないらしく、ギルガメッシュは政務に戻る態勢になる。
どうやらカルデア側の話はもう聞く気がないらしい。

マーリンは立香たちのところへ赴くと、「今日はとりあえず宿を探そう」と仕切り直しを提案する。


「明日になったら話を聞いてくれるかもしれないし」

「聞かぬわたわけ。我は忙しい、カルデアの遠足に付き合っている暇はないわ」

「遠足とはまた手厳しい。だが彼らはここまで多くの特異点を修正してきた、いわば人理修復のプロフェッショナルだ。君だっていい加減、働き過ぎだろう?そろそろ第三者の力を信じてもいいと思うのだけど」

「要らぬと言った。この時代が起こした災いは、この時代の者が解決する。どうしても我の役に立ちたいと言うのであれば、下働きから始めるがいい。祭司長!こやつらの待遇は貴様に一任する!面倒だろうが、面倒を見てやるがいい!」


やはりギルガメッシュは応じなかったが、しかし立香たちをシドゥリに任せると言った。ウルクでの滞在は認めてくれるようだ。そして、下働きから始めろとも言った。つまり、この世界のことをもっとよく知ってからであれば、ある程度は応じてくれる可能性があるということだ。

こうして、いよいよ本格的に第七特異点での生活が始まった。古代は良くも悪くも時間の進みが緩やかだ。長丁場となるだろう。


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