絶対魔獣戦線バビロニアI−13


ギルガメッシュが不在の間、ジッグラトの留守を任された唯斗とアーサーだったが、その仕事ぶりが評価されたのか、ペルシア湾から戻ってきたギルガメッシュに引き続き補佐をさせられた。
一方、立香は帰るなりすぐにクタ市に派遣されることになり、天命の粘土板を回収する役目を与えられた。

正直、立香ばかり遠征に出ていることが羨ましくも申し訳なくもあり、唯斗はギルガメッシュに「そろそろ俺が行きます」と言ったのだが拒否され、立香は立香で「頭使う仕事は任せた!」とにこやかにウルクを後にしてしまった。

とはいえ、立香はクタで見事にイシュタルからある程度の情報を引き出すことに成功し、天命の粘土板も持ち帰った。引きの良さ、そしてイシュタルを絆すようなコミュニケーション能力を考えれば、確かに立香があちこちに出掛けるのは理に適っているのかもしれない。

しかしやはり唯斗ばかり安全なウルクにいるのは、と思っていたところ、ついに、ギルガメッシュは立香の帰還をもってカルデアに大役を任せることになる。


「貴様ら、ニップルは知っているな?」


玉座の間で、クタでの報告を済ませた立香と、それを玉座の横で聞いていた唯斗にギルガメッシュが問いかける。
マシュが立香に代わって答えた。


「ウルク北壁、バビロニア魔獣戦線の向こうに取り残された街ですね…?」

「そうだ。魔獣どもに取り囲まれながら、籠城することでここまで長らえてきた」

「イシンの北、パズリシュ=ダガンあたりに構築された北壁より少しだけ北にある都市だな。キシュ、ニップル、ウルク、エリドゥはこの時代の大都市として勢力を誇った」


唯斗の補足にギルガメッシュも頷く。その大都市ニップルの備蓄が尽きたため、魔獣たちの攻勢が弱まる周期を狙って残された市民を脱出させるのだという。
唯斗たちが兵士の引き継ぎまでフォローに入ったあと、弁慶や牛若丸によって直近の攻勢周期を乗り切ったため、向こう6日間は大規模な攻勢がないらしい。


「この任が成った暁には、貴様たちを認めてやろう!人理を修復するに足る者たちとして、この我の名代となるがよい!」


***


ようやくギルガメッシュに認められる形となったニップル解放作戦への参加のため、唯斗たちは北壁への道を進んでいた。
立香と唯斗はラクダに乗って移動し、交代でロバの牽引する荷車の幌の中で休む形を取っている。
本当は立香にはもっと休んでもらいたかった。天命の粘土板を見た立香は一瞬意識を失い、顔色をひどくしていた。今はなんとかなっているが、マーリンが「それは一種の呪詛だ、口にしてはいけないよ」と言ったため、天命の粘土板から得た光景を立香は明らかにしていない。

それを抱えている状態でもあるため、なるべく立香を休ませようとしているのだが、唯斗のコミュニケーション能力では立香を言いくるめることができず、最終的にはガンドで脅した。

ウルクを出て一日半、街道の途中で休憩がてら交代となり、脅されて休んでいた立香が荷台から出てきて唯斗が中に入ることになる。
また、同じく休んでいたマシュとマーリンも交代となり、荷台の中には唯斗とマーリンの二人となった。


「横になるかい?」

「いや、酔いそうだからいい」


進み始めてすぐ、唯斗はこの揺れで横になるのはまずそうだと判断した。
そのため、座ったまま目を閉じるが、もともと寝付きの悪い唯斗がこの環境で寝られるはずもない。


「寝付きが悪いんだね、唯斗君は」

「あぁ、自分の部屋のベッドですら時間かかる」

「ふむ、ではお兄さんが寝かせてあげよう」


するとマーリンはそう言って、唯斗の右隣に移動すると、自分に唯斗を凭れさせた。マーリンの左肩に頭を乗せる形となり、唯斗は少し驚く。


「…え、マジで?」

「マジだよ」

「…ありがとう。てかあれだな、マーリンって意外と筋肉すげぇのな」


触れた腕の硬さと太さに、唯斗はつい、ローブに隠れた腕をつんつんとしてみる。マーリンはローブを捲って腕を見せてくれる。


「まぁ、一応剣も使うからね、私は」

「アーサーに剣を指南したくらいだもんな」


太く筋の張った腕に、唯斗はその筋を撫でるように触れる。マーリンはくすりと笑うと、唯斗に顔を寄せた。


「もっと他のところも確かめてみるかい?」

「…?」

「マスター」


そこに、よく似た声ながら凜としたアーサーの声が割り込んだ。幌の入り口から顔を覗かせるアーサーは、歩いて荷台のそばについており、こちらを覗いてマーリンをジト目で見遣る。


「マーリンに可愛いところを見せてはいけない」

「何言ってんだ」

「おや、嫉妬深い男は嫌われてしまうよ?」

「マーリン、私はマスターに関しては容赦しないからね」

「はいはい、仰せのままに」


マーリンは呆れたように言うと、おもむろに唯斗の額に人差し指を当てる。途端に、猛烈な睡魔が襲い、瞼が自然と落ちる。眠りに落とす魔術だろう。マーリンの肩に凭れて力が抜けていき、意識を手放した。
「おやすみ、我が王の最愛の君」というマーリンの言葉が聞こえたような気がした。


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