絶対魔獣戦線バビロニアI−14
ウルクを出た三日目の夕方前に北壁に到着し、一晩を過ごして翌朝、ついにニップル解放作戦が始まることになった。
北壁にすでに展開していた弁慶、牛若丸、レオニダスとも合流する。立香と唯斗が一緒に作戦行動に入るのは、この特異点ではこれが初めてとなる。
しかし、状況はやや変化していた。
魔獣たちは指揮官だった魔獣が巴御前によって倒されて以降、秩序立った動きではなかったが、ここにきて再び動きが変わっているのだという。現在、ニップル周辺を周回しているらしい。
そこで、まず牛若丸と弁慶が城壁東部から魔獣たちを陽動し、立香たちカルデアとマーリン、アナが兵士を率いて西から入城、市民を北壁へと誘導することになった。レオニダスは北壁の守りに徹する。
陽動となる牛若丸たちと離れ、カルデア一同は城壁の門へと向かう。門にはレオニダスがニップルへ向かう兵士たちを集合させており、立香と唯斗に気づくとこちらへやってくる。
「藤丸殿、雨宮殿、いよいよですな。市民の誘導、および市民に気づいて陽動部隊から離れてやってくる魔獣たちの掃討が任務となります。ですがどうか、無理はなさらぬよう。手遅れだと判断したら即座に撤退してください。あなた方にはより大きな使命があるようですからな」
「おや、そのわりに危険な任務にはつかせるのだね」
レオニダスの言葉にマーリンが首をかしげる。レオニダスは豪快に笑うと、立香の肩をバシバシと叩いた。
「ええ、危険な目にはどんどん遭っていただきますぞ!それがここまで生き残った者の定めというもの。始まりは非才なものだったとしても、マスターとして時代を巡ることに、魔術の才能はそう重要ではありません」
レオニダスの言葉に、立香はポカンとする。唯斗はレオニダスがこういうことを言うとは思わず、立香の隣で大柄な男を見上げた。
「なぜなら、どのような天才、どのような才人であれ、この天変地異の前には等しく無力なのです。であれば、人理を守るために最も必要なものは、困難から目を背けない性質だと、私などは思うのですが」
トルコからパキスタンまで支配したアケメネス朝ペルシア帝国に対して戦い抜いた、スパルタ王レオニダス。彼から言われるからこそ、その言葉は心にじわりと広がる。
特に、立香は普通の一般人で、それなのにグランドオーダーから一度も目を逸らさなかった。その強さは、まさに人理を救える器だ。
「…さて、ではそろそろ参りましょう」
強く励まされた立香たちは、壁の門から一歩外に踏み出す。この街道を行けばニップルに着く。この壁でレオニダスが守ってくれている、それだけで奮い立つようだった。
北壁から歩き始めて30分、前方に見えていた城壁がようやく近くなり、陽動戦闘を行う牛若丸たちの戦闘音も遠くなった。
兵士たち50人あまりと立香、マシュ、唯斗、アーサー、アナ、マーリンによる隊列が西門に到達する頃には、太陽はそろそろ真上に上ろうかという頃合いになっていた。
そして、アナが扉を破壊して門を強引に開くと、目の前に広がる光景に愕然とする。
「な…遅かった、のでしょうか…!?」
口元を手で覆うマシュ、表情を険しくする立香。
市内は、あちこちに血痕が点在しており、誰一人として人の姿が見かけられなかった。ニップル市内に残された200人ほどの市民はいったいどこへ消えたのか。
「死体がない…立香、血痕が一方向に引きずられてるようになってる」
「ほんとだ…ひょっとして、殺されたんじゃなくて、捕らえられた…?」
「可能性はある。だとすれば、外の魔獣と違って極めて理性的だ」
「…行こう」
血痕は家々から一様に街の中心部、丘へと続く。エンリルの神殿が設けられた小高い丘への道を、血痕を辿りながら進んでいくと、アーサーは剣を抜いた。
「マスター、藤丸君、注意して。強力な気配がある」
「分かった」
アナとマシュも構えて、アーサーの言葉を聞いていた兵士たちも剣を構えた。全員、臨戦態勢で丘を囲む道を上がっていき、やがて丘の頂上にたどり着いた。
広場になったそこには血痕が集中し、そして、その中央に泰然と立つ人物がいた。
緑色の長い髪にゆったりとした白い貫衣、鎖を模した首飾り。