絶対魔獣戦線バビロニアI−16


「小癪な。全員串刺しにしてあげよう」


エルキドゥは嫌悪感を露わに言うと、大量の鎖を上空に出現させた。先の尖った槍のような鎖がこちらに切っ先を向けており、空中で四肢を拘束されたアナにもそれは向かっている。


「ッ、鉄の人よ、天より来たれ(ドント フアラン デン ガント ネヴ)!」

「マスター、」


呻くアーサーと二人分を囲むように、咄嗟に結界を展開する。ギリギリで間に合ったが、何本もの鎖が結界に突き当たると、すぐに亀裂が入っていく。


「避けるしかない、アーサー」

「っ、わかった」


アーサーは拳を握り頷く。互いに動けない以上、それしかない。避けきれるか自信はないが、他に手はなかった。
唯斗は息を吸い込むと、結界が割れる寸前、左手に魔力を籠める。


「ヴィアン!」


すぐ脇に先ほど開けた穴から泥水を結界内に出現させると、それとほぼ同時に結界が破られる。息を止めながら、直前まで結界の外に見えていた鎖の切っ先から進路を予測して体をずらす。
泥水によって二人の姿はエルキドゥから見えず、狙うことはできない。結界が破れたことで泥水もあふれ出して地面に広がっていき、鎖が地面に突き刺さる。痛みはなく、唯斗は鎖が当たらなかったようだ。


「げほっ、げほっ、アーサー、大丈夫か…?」

「ぐ…ッ!」


なんとか目を開けて隣を見遣ると、そこには、脇腹に鎖の槍が突き刺さるアーサーが痛みに呻いていた。


「ッ、アーサー!」

「キャスパリーグ、今だ!!」


すると、マーリンがそう叫んだ。なんのことかとそちらを見ると、なんと、フォウが空中に飛び出していた。
鎖に貫かれたアナとアーサー、なんとか避けたが右足をひどく負傷する唯斗は3人とも動くことはできない。だが、フォウは突如として光り輝くと、その光に3人を包み込む。
眩さに目を閉じても、瞼の裏に光が届く。だがそれがふと消えて、唐突に体が一瞬浮き上がったと思うと、再び固い地面に降り立った。

目を開けるとそこはニップルの西門で、隣にアーサーが倒れている。


「…は……?瞬間移動…?いや、そんな、馬鹿な…」


それは魔法の領域だ。唯斗の召喚術式が生きた人間やサーヴァントを対象とできないように、魂や魔力体という高エネルギー体を転移させることはそうそうできない。
フォウとアナの姿はなく、アーサーと唯斗だけだが、今はとりあえずアーサーを回復させて離脱する必要がある。唯斗もこの怪我では戦えない。
なぜエルキドゥが唯斗とアーサー、アナを狙い撃ちにしたのかなど気掛かりな点は残るが、事態は一刻を争う。


「アーサー、大丈夫か?!」

「ッ、マスター…あぁ、大丈夫だとも、」


アーサーはなんとか体を起こそうとするが、唯斗はそれを制して脇腹に手をかざす。高度な治癒術式を展開して治していくと、アーサーは剣を右手で掴んでニップルの街を見上げる。


「…マスター、すまないが離脱しよう。治癒は引き続きかけていてくれ。僕が君を抱えて北壁へ走る」

「北壁まで?なんでそんな、って、なんだ、これ地震か…!?」


突然、地面が縦に大きく揺れ始めた。市内の建物が音を立てて埃が舞う。同時に、エンリル神殿の丘から土煙が立ち上って、地面が砕け割れる轟音が響いた。何かが丘を突き破って現れようとしているのだ。


『極めて強いサーヴァント反応!神霊だ!唯斗君とアーサー王はすぐに離脱、立香君たちも気をつけるんだ!!』

「北の女神か…!」


どうやら女神が直々にお出ましらしい。アーサーは立ち上がり、唯斗を背中に促す。両手に抱えないで背負うときは、スピードを出さないといけないときだ。
唯斗はアーサーの背中に乗り、背負われながら再びアーサーの脇腹に治癒魔術をかける。
脇腹を貫通しているのだ、アーサーは相当苦しいはずだが、それでも唯斗を背負って走り出す。唯斗には、それをできるだけ早く治せるよう術式の展開を維持するしかない。

通信では、出現した女神の観測結果がロマニから伝えられる。クラス・アヴェンジャーの神霊サーヴァントのようだ。女神自身は己をティアマトと名乗った。
さらに、ティアマトは平伏せよと言って、立香たちの動きを止めた。物理的に体を動かなくさせたのだ。あのマーリンですら動きを止めさせられているらしく、そのような強力な魔眼をティアマトが持っていることに疑問が浮かぶ。

ティアマトは地母神、そのような悪性を持つ女神ではないのだ。いくらアヴェンジャーといえど、不可解だ。


「こんな内陸になんで塩水の神であるティアマトが…それに魔眼なんて…」

「なんであれ、あの女神には今の戦力では歯が立たない。まずは態勢を立て直さないと」


立香たちも撤退を始めているようだが、すでに後方のニップル市内からは爆発音が断続的に聞こえ始めている。兵士たちは全滅したらしく、立香たちを殺そうと町ごと破壊しているようだ。
すでにかなり離れたところまで達しているにも関わらず、ニップルに立ち上がる翼の生えた女神が巨大な蛇を何匹も従えているのがよく見える。


『牛若!?』

『助太刀に参りました、藤丸殿!』


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