絶対魔獣戦線バビロニアI−19


「…それこそあり得ぬ。人の世は滅びる。最強の守りである貴様が無駄死にしたのだから!声を上げよ、魔獣たちよ!もはや刻限を待つまでもない!」


ゴルゴーンはそう言うと、魔獣たちに進軍を指示した。その腹はすでに塞がっている。どうやら魔術王の聖杯はゴルゴーンが有しているらしい。三女神同盟が狙うのはウルクの大杯であって魔術王の聖杯ではないということだ。


「…おい聖剣使い、貴様の出番であろう」


するとオジマンディアスはアーサーにそう声をかけた。エクスカリバーを解放しろということだ。アーラシュも頷く。


「その通りだセイバー。もうそれしかない。この辺りは吹き飛ぶだろうが…」


こちらへの興味をなくして北壁へと進み始めたゴルゴーンに、唯斗も二人の言うとおりだと判断する。


「アーサー、北壁が崩れてでも、エクスカリバーを正式解放してあいつを倒す。魔獣よりゴルゴーンの方が脅威だ」

「…分かった」


唯斗はアーサーにエクスカリバーの正式な解放を許可しようとした。12の拘束を一部外して、きちんとその力を解き放つのだ。
しかしその前に、凜とした声が響く。


「お待ちください母上、それは短気に過ぎませんか」


ゴルゴーンのすぐそばに現れたのはエルキドゥだ。なぜゴルゴーンを母と呼ぶのかは分からないが、ゴルゴーンはエルキドゥに意識を向けて止まる。


「なに?」

「僕らにとってウルク攻めなど途中経過。真の問題は人間ではなく他の女神でしょう?第二世代の魔獣たちは、ウルク攻めの後に訪れる他の女神との戦いのためのもの。鮮血神殿で誕生を待つ十万の子供たち、彼らの誕生まで女神同盟は続けなくては」


ゴルゴーンとエルキドゥにとって本当の敵は他の女神だというエルキドゥの言葉に、ゴルゴーンは逡巡する。
そして、土煙を上げながら地面に沈み始めた。


「我が息子の寛容さに感謝するのだな、人間ども。だが滅びの運命は変わらぬ。これより十の夜明けの後、我らはウルクに攻め入る。それまでせいぜい恐怖に震えるがいい」


ゴルゴーンは地中へと潜っていく。どうやら考えを改めたらしく、10日間の猶予を与えて自身の神殿へと帰っていった。
残されたエルキドゥはため息をついて立香のそばに降り立った。


「聞き分けのない親を持つと苦労する。子は親を選べないからね。君もそう思うだろう?藤丸立香」

「なんのつもりだ…?」

「君たちを助けてあげたのさ。他の女神は人間を有効活用しようとしているからね、本気になられると困るんだ」


エルキドゥに敵意はなく、余計な戦闘を避けるべくアーサーたちも攻撃はしない。だが、アーラシュとオジマンディアスは唯斗と立香を守るように立ち、アーサーはいつでも攻撃できるように神経を尖らせていた。
エルキドゥもこの状況で攻撃する意志はないようだ。
立香はそれを理解して、エルキドゥに問いかける。


「お前は何者なんだ」

「あぁ、それももう隠す必要がないね。僕も魔獣同様、母に造られた存在だ。君たち旧人類を滅ぼす、新たな人類のプロトタイプ。原初の女神、偉大なるティアマトに造られた存在。その真名を、キングゥという」


神話においては、ティアマトの子として11人の将を率いてマルドゥークと戦った神だ。しかしこのキングゥは、エルキドゥをモデルにして再構築された存在なのだという。
エルキドゥの権能を有していることを考えると、エルキドゥの体を使ったキングゥ、ということだろう。


「君たちの歴史は僕が引き継ぐ。だから安心して滅びるがいい。無に還る喜びが、君たちに与えられた最後の救いだ」


キングゥはそれだけ言い残すと、瞬間的に上空へと飛び上がり、北へと消えていった。

なんとか魔獣戦線は持ちこたえた。だが、失ったものはあまりに多かった。


376/460
prev next
back
表紙へ戻る