絶対魔獣戦線バビロニアII−1


ニップル解放作戦によって得られた成果、それは北の女神の正体がゴルゴーンであるということ、魔術王の聖杯を持っていること、エルキドゥ改めキングゥが仕えていること、それらが判明しただけだった。
一方、北壁のニップル周辺は半壊、サーヴァントもレオニダスが消失して牛若丸が消息不明、弁慶は牛若丸を助けられなかったことを恥じて戦線を離脱しどこかに消えた。弁慶の正体は、弁慶本人ではなく常陸坊海尊という人物で、義経と弁慶の伝説を日本中に伝え残した者だ。

戦力としてはサーヴァント3騎がいなくなってしまい、かなりまずい状況だ。

そこで、ゴルゴーンを倒すために他の女神を交渉ないし同盟関係でなくすことで、戦力をなるべく結集させる方法に転じることとなった。

そのためにまずは、立香たちがイシュタルを懐柔するためにエビフ山へと向かう。宝石に目がない守銭奴女神を買収するのだという。
バビロンの宝物庫の3割を託された立香は、イシュタル買収というとんでもない任務のためにウルクを出立。そして唯斗も、戦力が極めて薄くなった北壁を立て直すために北壁へと戻ることになった。

ゴルゴーンが侵攻を開始するまで残り9日間、それまでも魔獣に対処する必要は依然としてあるため、レオニダスに代わって戦い、そして北壁修繕を行わなければならない。
ウルクに戻ってすぐまた北壁に戻るというのはしんどいと言えばそうだが、女神と交渉する立香の大役を思えばどうということはない。

通信を通してカルデアのフォローが必要な立香たちに混線しないよう、唯斗は通信をミュート状態にしてラクダに乗り、アーサーが手綱を引く形で北壁を目指す。
三度目となる街道を進む道で、ちょうどミュートであることもあって、唯斗はこの際アーサーに確認してみることにした。


「なぁアーサー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんだい?」

「…アナってさ、ひょっとして……」

「あぁ…気づいたかい」

「なんとなく、だけど」


確固たるものではなく、直感に近いものだったが、唯斗はアナの正体に思い当たる節があった。とはいえ、本当にそれは確たる証拠などないものだ。
アーサーはそれを理解した上で頷く。


「そう、彼女はゴルゴーンの幼体だ。恐らく、アテナの呪いを受ける前だろう」

「じゃああの鎌は、ペルセウスがヘルメスから授かったハルペーか」

「まったく同じものかは分からないけれど、少なくとも同質のものだろうね」


サーヴァントの宝具には様々な種類がある。アーサーをはじめ唯斗のサーヴァントは皆、己の逸話に基づくもので、一般的な宝具だ。だが、中には己の死因が宝具となっている者もいるとされる。
アナはまさにそれで、かつてペルセウスがゴルゴーンの首を切り落とした、知と伝令を司る神ヘルメスから授けられた金剛の鎌を模したものだろう。


「…なるほどな。アナは、だから人が嫌いなのか…」


それは憎しみではない。それはゴルゴーンのものだ。アナは怪物になる前でありながら、サーヴァントとして自らの行く末を知っている。そのため、彼女の人間嫌いは、どちらかと言えば、怪物となった自分を知られたくないという恐怖から来るものだろう。


「……嫌われる前に嫌って遠ざける……」

「…マスター、」

「……共感なんて、そんな失礼なことは思わない。けど、うん、純粋に、複雑な気分だ」


とても唯斗の境遇くらいで共感など示せるものではない。少なくとも、父以外に殺されそうになったことはないし、それは憎悪や敵意ではなく、ただの材料としての扱いに過ぎなかった。それはそれで残酷なことなのだろうが、まったく性質の異なるものだ。


「でも、いずれにせよ、アナの戦いと俺たちの戦いは同じだ。一緒に戦うだけだ」

「そうだね」

「あともう一つ聞きたいんだけど。フォウの正体、アーサーは知ってるよな」

「それも察しているんだね」

「……瞬間移動は魔法の領域だからな」


続いて唯斗はアーサーにフォウのことを尋ねた。やや低い位置にあるアーサーの顔を見遣ると、アーサーは苦笑して返した。ビーストのことはアーサーに聞くに限る。

あれはいわゆる単独顕現、ビーストにしかない能力だ。人間の瞬間移動とは違う。

思えば、特異点Fで帰還レイシフトが間に合わなかったとき、立香とマシュ、唯斗の3人をカルデアに帰してくれたのはフォウだったのだろう。


「そう、あれはビーストの幼生。ビーストIV、『比較』の獣。相手より強くなる力を持った、地球の抑止力ガイアがもたらしたものだ」

「ガイア…地球の抑止力。そんなものがなんで…てかキャスパリーグって呼ばれてたよな?」

「そうそう。エクスカリバーをものともせず僕が危うく殺されかけた怪物の名だね。ただ、それとまったく同じ存在であるかまでは分からない。そもそも、僕の世界とこの世界で同じ存在かも定かでないからね」


アーサー王伝説でアーサー王を殺す一歩手前まで追い詰めた怪物がキャスパリーグだ。その名を冠したビーストであるフォウは、地球という星の生存本能である抑止力ガイアがもたらす獣だという。なお、人類の生存本能によって発生する抑止力をアラヤという。


「ビーストの存在も、ガイアもアラヤも、形而上学的な空論だと思ってた」

「時計塔で学んでいたわけでないのなら、そう結論づけても不自然じゃないさ。時計塔ですら、そのレベルのことはロード級の者たちの領分だろう」

「…ま、それでもなも、依然として机上の空論か。実際に戦場に出たらどうでもいいしな」

「まぁ、それもそうだ」


元も子もないが、アーサーは「君らしい」と笑った。
複雑に考えるのは机の上だけで十分だ。目の前に近づいてきた北壁に、やるべきことはシンプルだと、自分に言い聞かせた。


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