絶対魔獣戦線バビロニアII−2


二日後、仲間になったイシュタルを加えて立香たちはウルクに戻り、唯斗とアーサーも北壁でのフォローを終えて、無事に壁の修繕が完了したのを見届けてからウルクに戻った。
ともにほぼ同じタイミングでウルクに帰還したため、揃って玉座の間で報告する。

必要なことを報告し、イシュタルとギルガメッシュの口喧嘩もひとしきり終わったところで、話は次の段階に進む。


「ゴルゴーンがティアマト神の権能を持っていると分かった以上、実に有効な武器がある。かつてティアマト神の喉を裂いたマルドゥーク。その手斧が、エリドゥには保管されている」


ギルガメッシュの話では、ウルの南、密林に閉ざされた一帯に位置するエリドゥに、マルドゥークの斧が存在するという。
神話においてティアマトを倒したことがある武器であればゴルゴーンに通るだろうということだ。


「で、どうなのだイシュタル?密林の女神の正体、貴様なら知っていよう」

「…まあ、それくらいなら教えてもいいか。ウルの南に陣取った女神は『翼ある蛇』、私と同じ金星の女神にして太陽の大鳥、南米の風、ケツァル・コアトルよ」

「はぁ!?」


まさかの女神の名に、唯斗は驚いてつい声を上げてしまった。カルデアから通信でロマニの驚く声も聞こえてくる。


『主神クラスじゃないかー!それ、下手したらゴルゴーンより格上だぞ!?というか、ケツァル・コアトルは男性神だろ!?』

「唯斗、ケツァル・コアトルって?」


隣の立香に聞かれ、唯斗は頷いて答える。南米はこれまでまったく縁がなかった。


「南北アメリカ大陸は、アラスカとロシアが繋がっていた時代に渡った古モンゴロイドが暮らしていた。その後、海によってロシアと断絶されて、独立した大陸となったことで、古モンゴロイドだけで構成された文明が生まれた。主立ったものは、メキシコ中央部のアステカ、メキシコ南部からグアテマラあたりにかけてのマヤ、そしてペルーからアルゼンチンにかけてのインカだ。このうち、アステカとマヤで崇められた創造神の一人がケツァル・コアトルだ」

「主神ってそういうことか…複数人いたんだ?」

「伝承や時代によるんだ。なにせ、マヤは1万年近く継続した文明だしな。アステカも区分によっては紀元前から文化的生活が行われてたし。基本的には、ケツァル・コアトルは太陽や金星を象徴する最高神とされる」

「そんな神様が…」

「ああ、そっか。人間は知らないわよね」


すると、話を聞いていたイシュタルはさらに詳しく話し始めた。
いわく、メキシコを含む南米の神話体系はユーラシアのそれとは異なるらしい。

なんと、南米の神性はこの地球で生まれたものではなく、空から振ってきたもの、宇宙から来たものだという。地表に衝突した小惑星に含まれていた何かしらの物質が植物に寄生して、やがて人や動物を神に変化させる微生物として存続していったという。


「むう…神話体系が異なると未来も見えんな」


ギルガメッシュは自ら情報を千里眼で得ようとしたようだったが、人理が滅びているからか、神話体系が異なるからか、情報を得られなかったらしい。


「ケツァル・コアトルは創造神の息子から始まって、やがて最高神そのものになったり、太陽神になったり、金星の女神になったりした神。最も有名な逸話は、人身供物をやめさせた平和の神としての側面で、善性を司る神として知られるな。三女神同盟として人類を滅ぼすなんていう行動は、正直理解できない」

「そうなんだ…」


そこまで話したときだった。
突然、市内南部から爆音が響いてきた。空を震わせる轟音に、全員が南門を見遣る。吹き抜けた玉座の間からはどこにいても市内南部を一望できるが、その南門から黒煙が上がっていた。


「報告!!ウルク南門より火急の報!ケツァル・コアトルを名乗る女が素手で城壁を粉砕し、ウルク内部に侵攻中!」

「タイムリー過ぎる…!ギルガメッシュ、先行する!アキレウス!」


唯斗はすぐにアキレウスを呼び出すと、アーサーとともに戦車に乗り込む。


「何事だマスター!?」

「南米の主神、ケツァル・コアトルだ」

「は!?すっげーなメソポタミアってのは!」


アーサーに支えられながら、ウルク上空をアキレウスの戦車で飛び、南市場に到着する。
目抜き通りでは兵士たちが交戦しているが、次々と女神らしき女性に倒されていく。
戦車が通りに降り立つと、唯斗はアーサーとともに飛び降りて、ケツァル・コアトルと対峙する。
金髪の背の高い女性だ。


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