絶対魔獣戦線バビロニアII−5
立香たちが出発した次の日、昼過ぎにはエリドゥに到着したことが通信で分かった。
例によってこちらはミュートにしており、唯斗はジッグラトでギルガメッシュの補佐を続けながら様子を窺っていた。
「立香たちがエリドゥに到着しました。ウルクから連れ去られた兵士たちは全員生きているっぽいです」
「なに?殺されたのではなかったのか」
「報告では致命傷だったはずですが…」
驚くギルガメッシュとシドゥリ。唯斗も、ケツァル・コアトルの戦いで100人の兵士が殺されたのだと思っていた。
だが実際には、エリドゥに連れ去られ、そこで何やら強化訓練を施されているらしい。
「即死級の攻撃を食らわせて、すぐに蘇生してるらしく、実際には誰も死んでないようですね。ウルの生贄もそうみたいです。私設部隊でも作る気か…?」
「…フン、なるほどな。唯斗、ケツァル・コアトルは善性の神だと言ったな」
「え、はい」
「であれば、ケツァル・コアトルは己のやり方でこの世界を救おうとしているのやもしれん」
「…?でもウルクを滅ぼすって……」
「ヤツの見立てでは、我がウルクではゴルゴーンに勝てないと判断したのだろう。腹の立つことこの上ないが、それも事実だ。いや、ゴルゴーンに勝てたとしても…」
唐突に言葉を濁したギルガメッシュを見上げるが、ギルガメッシュは軽く咳払いをして誤魔化す。ゴルゴーンが魔術王の聖杯を持っており、魔獣を生み出して時代を狂わせているのだから、ゴルゴーンを倒せばすべての条件が達成されるはずだ。
「ギルガメッシュ王…?」
「いや。それよりも、ケツァル・コアトルだ。ヤツは、自分よりも確実にゴルゴーンを倒せると判断しない限り折れないだろう。であれば、結局は戦闘は避けられん。状況を注視し、交戦が始まって厳しそうであれば貴様もアキレウスによって急行せよ」
「…了解」
ギルガメッシュにはギルガメッシュで考えていることが無数にある。
唯斗は追及せず、通信に意識を戻した。どうやら密林でジャガーマンを立香が口説いたようで、いつの間にか味方になっていた。まったくもってジャガーマンという存在が理解できないが、その強さは確かだ。神霊である以上、ケツァル・コアトルとの戦いに有効である。
シドゥリ、そしてアーサーと3人で補佐や、人員采配についてはアーサーがギルガメッシュの決裁業務の代行などもしつつ、唯斗は基本的に立香の通信を聞いて、必要ならアドバイスをしていた。
やがて、通信機からは大きな音が聞こえ始める。戦闘が始まったのだ。
密林にはピラミッドがあるらしく、その頂上に神殿のシンボルでありケツァル・コアトルの神性の源である太陽石アスティック・カレンダーが鎮座しているようだ。
アステカ暦は365日の暦シウポワリと260日の暦トナルポワリを用いる暦で、円形の石板である太陽石に記される。シウポワリは20日間で構成される月が18か月とあまりの5日からなり、トナルポワリは13日間の週と20の記号の組み合わせで構成される。
シウポワリは日数こそ違うが現代の西暦と同じようなカウント方法であり、月に属さない5日間は不吉とされた。トナルポワリはイメージとしては西暦カレンダーにおける大安や先負などの六曜の関係に近い。13日が一巡しても20の記号は一巡しないため、数字が1に戻っても記号は14番目のから先に進んでいくのである。そのため、複雑な暦の表記が可能となる。トナルポワリは祭祀用のカレンダーのため、儀礼的な用いられ方をしてきた。
うるう日などの調整方法は知られていないが、世界最古のカレンダーの一つである。
特にマヤ文明のカレンダーは、世界の終わりが2012年だとされていたため、終末論が盛り上がったこともあった。