絶対魔獣戦線バビロニアII−8
とりあえず立香たちはひと段落ついた様子だったため、唯斗はギルガメッシュに作戦の成功を伝える。
ギルガメッシュは頷いて、報告の神官たちが捌けたのを確認してから玉座を立ち上がった。
「シドゥリ、しばし空けるぞ。唯斗、来い」
「え、あ、はい」
なぜか唯斗だけが呼ばれたため、玉座の間をシドゥリとアーサーに任せ、唯斗はギルガメッシュについて行く。
ジッグラトの奥、王の寝室に近い廊下だ。ここは実質王の空間であるため、誰もいない。二人きりでなければならないということか。
「先ほど、南米は上書きされた文明だと言ったな」
「…あぁ。滅びた文明じゃなく、滅ぼされた文明だ。南米の古代文明を滅ぼした欧州文明が、現代の基礎になってる」
「滅びたのではなく滅ぼされた…なるほどな。では一つ尋ねよう」
唯斗の前に仁王立ちになるギルガメッシュ。薄暗い廊下なのに、彼自身が光を放っているかのように存在感があった。普段のサーヴァントとしてではない、賢王ギルガメッシュとして唯斗の前に立っている。
自然と居住まいを正し、ギルガメッシュの言葉を待った。
「このウルクを中心とするシュメール初期王朝は滅びる。この文明は、じきに滅ぼされる。どう足掻いてもな。それでも、その滅びに抗おうと思うか」
「っ…」
ギルガメッシュの質問に息を飲む。
もちろん、正史において古代メソポタミアは滅びるが、それは進化しながら後継の文明に継承されていくということであり、南米のように上書きされて消失するものではないはずだ。
しかしギルガメッシュは、明確に「滅ぼされる」と述べた。
たとえゴルゴーンを倒しても、もうこの特異点において、メソポタミアは滅びるということだろうか。
恐らく、ギルガメッシュはこの質問を立香やマシュにすることはないだろう。マーリンが言っていたように、唯斗は歴史に対して、それを変えるのではなく歴史の在るがままを受け入れているからだ。
つまり、滅びも唯斗は受け入れる。そういうものだと割り切って。
ただ、立香を止めたのは、その滅びを再生産するようなことを避けたかっただけで、南米の文明がスペインに滅ぼされたこと自体を回避するべきだとは思っていない。
だからこそ、ギルガメッシュは、滅ぶ運命を原則として受け入れる立場である唯斗に対して、シュメール文明の滅亡に抗う試みの是非を問うているのである。
正解などなく、いろいろな言葉があるだろう。答えとして、様々な見方がある。だが、唯斗は、一度それらを捨てた。
「…今まで巡ってきた特異点は、現代に連続する文明や国家のものだった。メソポタミアみたいに、継承されることはあっても継続することはない、滅びる定めの時代に来たのは、これが初めてだった。でも、こうやってウルクで生活してみて…いや、今までもそうだったけど、教科書にしか書かれていない昔の世界であっても、人は変わらないんだって知った。いつの時代も、人は変わらず人だったんだ」
「…、」
ギルガメッシュは何も言わずに唯斗の言葉を待つ。しっかりと聞こうとしてくれている。それなら、ぶつけたいと思った。
「神と、自然と、隣国と、隣人と、人は常に戦ってきた。それは善悪で語ることじゃなくて、人はそういうものなんだと思う。殺されることに、滅ぼされることに抗わない人間なんていない。俺は未来のカルデアから来た人間だけど、このウルクの人たちと同じただの人間だ。俺はこの先、この文明がどう足搔いても滅びることを知ってるけど、それでも、一人の人間として戦う。それを辞めたら、これまでの人の歩みをすべて否定することになるから」
「同じ普遍的な存在たる人間として、滅びを知っていても抗うことこそが、お前にとって歴史への敬意を示す行為だということだな」
「現代で机の上で歴史を大切にすることと、こうやってレイシフトして実際にその場にいて大切にすることって、ちょっと違うってのもあるけどな」