絶対魔獣戦線バビロニアII−9


ギルガメッシュは唯斗の言葉を聞いて、ふと呆れたように笑った。


「貴様は生粋の歴史オタクだな」

「悪いか」

「そうは言っておらん。ただ、その在り方は好ましい。ウルクの民も、滅びを知って戦っている。なれば、貴様のような人間が肩を並べることは良いことであろう」

「滅びを知って…?」

「すぐに嫌でも知ることになるが、ウルクの、シュメールの民は、近いうちに自分たちが滅びることを知っている。我がそれを伝えたのだ」

「未来視でウルクの滅びを見たってことか…いや、それでも、そんな近いうちに…?明確に滅びる瞬間なんてやってこないのに…」

「滅びとは何か、貴様の目で見るときが来よう。今は、民が自らの定めを知った上でそれでも抗おうとしているのだと知っていればいい」


ギルガメッシュの話す内容は極めて不明瞭だった。シュメール文明が明確にこのタイミングで滅びる、という事象は発生しない。だんだんと消えていくのだ。王朝の交代であり民族の交代であるため、連綿と文明は継承されていく。もちろん、ティグリス川とユーフラテス川の流路変更は起こるが、それも長い時間をかけて発生することだ。
もしかしたら、正史には記録がない、何か決定的な事象があったのかもしれない。何が起きるのかは分からないが、ギルガメッシュは、少なくともすぐ未来にこの文明が滅びることを知っている。それを民に伝えて、民たちも知っているのだ。
それでも彼らは戦っている。


「無駄な足掻き、と現代から見れば判断することもできるだろう」

「そう論じる者もいるだろうけど、無駄かどうかは、当人たちが決めればいい。少なくとも俺は、あんたの未来予知を聞いても戦い続ける勇敢な人々と一緒に戦わせてもらえることも、その末に俺たちの時代があることも、ただ、光栄だと思う。無駄だと嘆く人はこの時代にもいるはずだ。でも俺は、俺にとっては、無駄なことなんかじゃない」

「そうか。まぁ、貴様ならそう言うであろうとは思っていた」


どうやら試されていたというよりは、確認されていたようだ。そのわりに曖昧な言葉しかくれなかったため、唯斗はため息をつく。


「試すようなことしやがって」

「王が臣下を試して何が悪い。だが…」


ギルガメッシュはそこで言葉を止めると、纏う空気を柔らかくする。
そして、唯斗に一歩近づくと、防具のついていない左手で唯斗の頭を撫でた。ギルガメッシュにこうされることは少し珍しく、唯斗はポカンとしてしまう。


「我らの苦闘より4600年後の世に、その歴史から居場所を得て孤独を癒す子供がいたのだと思うと、我であっても多少は感慨深いというもの」


孤独な人生において、唯斗は常に、歴史を知る時間に居場所を感じていた。世界を知ることから、そのまま世界そのものを居場所に感じられるような感覚を得ていたのだ。
それをつい先日、ギルガメッシュたちに伝えた。

そうしたカルデアの記憶も有しているギルガメッシュが、生きた王として唯斗にこうしてくれていることがなんだか嬉しくなって、つい、唯斗も頬を滑るその手に擦り寄った。
すると、ギルガメッシュはおもむろに唯斗の顔のすぐ横に己の顔を近づけた。耳元にギルガメッシュの形の良い唇が迫る。


「このまま閨を共にする栄誉をくれてやろうか?」

「……は?はぁ?!」


一瞬何を言っているのか分からず呆けてしまったが、腰を抱かれて囁かれている状況がまずいとようやく理解した。いつの間にこんな体勢になっていたのか。


「あ、あんた別に、俺じゃなくても、」

「ほう?この我が他ならぬ貴様を求めておるのだ、光栄に思うあまり涙を流す場面だぞ?」

「血を流す場面をお望みかな?」


そこに、聞き慣れたアーサーの声がかけられた。唯斗は気付かなったが、ギルガメッシュは気付いていたはずだ。
冷え冷えとしたアーサーの視線と、剣の柄にかけられた手を見て、ギルガメッシュはくつくつと笑う。


「王でありながらその余裕のなさ、滑稽と言う他あるまい」


その言葉に、唯斗がむっとした。


「俺が運転するバギーの助手席でヒイヒイ言ってたの誰だったっけな」

「不敬」


ぺち、と額に軽くチョップが落とされるが、まったく大したことのないもので、随分と加減されているのだと逆に驚く。
そうしてギルガメッシュは唯斗から離れると、玉座へと向かっていく。


「持ち場に戻れ。我は忙しい」

「どの口が…」


アーサーはそう言いながらも、唯斗の肩を抱いてギルガメッシュの後ろを歩き始める。アーサーの温もりであるというだけで緊張が解けるあたり、唯斗の体も単純だ。

とりあえず、これでケツァル・コアトルが仲間になってマルドゥークの斧も回収できた。これで憂いなくゴルゴーンと戦える、そう思っていた。


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