絶対魔獣戦線バビロニアII−10
その夜、遅くまで何やら新しい兵器の設計図を書いていたギルガメッシュは、シドゥリがそれを担当の神官に届けに行くために玉座の間を出て行ったあと、「仮眠を取る、少ししたら起こせ」と言って玉座で寝てしまった。
ギルガメッシュが玉座でうたた寝など考えられなかったが、言われたからには少しここで待機となる。
「まさかギルガメッシュが玉座でうたた寝とは…王様的にはそういうことあるのか?」
「人によるけれど…ギルガメッシュ王のことだ、玉座に座っている間は威厳を保とうと考えるはず。こういう姿を見せているのは、君にそれだけ気を許している証拠だろう」
「そ、うなのか…?単に、どうしようもないほど眠いだけなのかと……」
少しだけ声を潜めて喋りながら、山と積まれた石板を整理していく。少しすればシドゥリが戻ってくるため、それまでにギルガメッシュを起こす必要があるだろう。
夜も遅いこの時間ともなると、謁見を求める者もおらず、見張りの兵士も退席しているため、非常に静かだ。
一通り石板の整理も終わり、これでスムーズに明日の政務が再開できる、というあたりで、そろそろシドゥリが戻ってくる時間となる。
「もう起こすか」
「そうだね、あとはちゃんと部屋で寝てもらおう」
カルデアの姿と同じため錯覚しそうになるが、ギルガメッシュは生前の姿だ。神の血を引く王とはいえ、睡眠が必要である。
「ギルガメッシュ、そろそろ起きてくれ」
階段の下から声をかけるが、ギルガメッシュは起きない。ぴくりとも反応せず、唯斗は首をかしげる。神経質そうなこの男が、一度で起きないなどということがあるのか。
「ギルガメッシュ、シドゥリさんが戻ってくるぞ…ギルガメッシュ?」
もう一度呼びかけても反応がない。唯斗は階段を上がってすぐそばまで行こうとしたが、アーサーが制して代わりに向かった。
確かに、「我の玉体に断りなく触れおって」と怒られそうだ。
アーサーが玉座の近くまで行ってギルガメッシュの肩を揺らすが、それでも起きる気配がなかった。
「これは…まさか、」
そしてアーサーは息を飲んで、ギルガメッシュ首筋に指を当てて、珍しく焦ったようにしてこちらを振り返る。
「脈がない…」
「……は?!」
「間違いない、これは死んでいる…」
愕然とするアーサー、頭が真っ白になる唯斗。
沈黙が落ちると、そこに、シドゥリが戻ってきた。固まる二人を見て怪訝にしたシドゥリは、玉座に座って目を閉じたままのギルガメッシュに目を見張る。
「ギルガメッシュ王…?」
「…シドゥリさん。王が…」
「…まさか、そんな……」
首を横に振るアーサーに、シドゥリは気が抜けたように膝から崩れ落ちた。慌てて唯斗が支えるが、蒼白な顔に涙が伝う。
「そんな、そんなことが…あぁ、…そんな…っ!」
ベール越しに口元に手をやって信じられないと涙ぐむシドゥリ。唯斗は冷静に、今日のギルガメッシュに異変がなかったか思い返す。
ふと、気になる報告があったのを思い出した。
「…シドゥリさん、確か、城下でも衰弱死が異様に増えているって話でしたよね」
「ええ、眠るように息を引き取って…しかしまさか王まで…!あぁ、ウルクは終わりです…っ!」
「落ち着いて。アーサー、これは不自然だ。感染症でこんな症例は考えられない」
「そうだね、この状況だ。サーヴァント…あるいは、」
「他の女神…でも、イシュタルとケツァル・コアトルは仲間になった、ゴルゴーンにもティアマトにもこんな権能はない…じゃあ一体だれが…いや、まずは報告だな」
アーサーは玉座で引き続きギルガメッシュの様子を見て、シドゥリは動き出した唯斗を見上げる。通信機に呼びかけると、すぐにロマニが応じた。
「こちら雨宮、緊急だ」
『カルデアだ、どうした?唯斗君』
「単刀直入に言う。ギルガメッシュが死んだ」
『……はァ!?!?』
ロマニの驚愕する声が響き、通信の向こうで唸る声でする。どうやら眠っていた立香が起きたようだ。
『…どうかした……?』
『緊急事態だ立香君、ギルガメッシュ王がなぜか死亡したと唯斗君から報告が!』
『…え……?』
『なんだってー?!』
さらにマーリンの声も割り込んでくる。
通信の向こうで誰もが混乱する中、唯斗は冷静に言葉をつづけた。