絶対魔獣戦線バビロニアII−15
ゴルゴーンの大侵攻を二日後に控えた日の夜、カルデア一行とマーリン、アナは北壁に到着した。
翌朝には、ゴルゴーンのいる鮮血神殿へと強襲をかけるのだ。
無事に冥界から帰還したギルガメッシュを初め、クタとウルクの人々は蘇生してそれぞれ自宅に帰り、立香たちもクタからウルクに戻った。
そのあとすぐに作戦会議となって、会議を終えてその足で北壁まで急行、夜を迎えた形である。
なんとも慌ただしい一日だったが、こうして北壁に到着すると、これが最後の戦いになるのだという実感が沸いてきて、なんだか寝られなくなる。もともと寝付けない唯斗ではあるが、少し歩こうと壁の上に出てみた。
すると驚いたことに、階段を上がって壁の上に出たところで、ばったり立香に出くわした。
「あれ、唯斗、寝ないの?」
「こっちの台詞だ。ずっと歩きづめだったろ、立香は」
「まぁね。でも、なんか寝られなくて」
苦笑する立香の手には、なぜか花冠がある。綺麗なそれはセンスが良く、かわいらしくも凜としたピンクの花が印象的だった。
「…それは?」
「あぁ…うん、アナがお手伝いしてた花屋のおばあさんが、アナにって。将来は街一番の美人になるからって言ってさ。さっき渡そうとしたら、断られちゃったんだけどね」
「将来……」
「…唯斗も、知ってるんだよね、アナのこと」
「…一応な」
「ちょっと、話さない?」
思い詰めているようではなかったが、張り詰めてはいる。当然だ、明日は決戦の日なのだから。
唯斗は応じて、二人で壁の適当なところで座り、弓矢を放つための防御壁に背中を預けて並んだ。
右側に座る立香は、花冠を大事そうに腰のポーチにしまった。
「……立香はすごいな」
「なに、急に」
「イシュタル、ケツァル・コアトル、エレシュキガル…三人の女神を仲間にしてみせただろ。てか礼を言ってなかった。ケツァル・コアトルのとき、俺の我が儘聞いてくれてありがとな」
冥界にて、立香は冥府の女神たるエレシュキガルを説得し、仲間に加えることに成功した。とんでもない報告の数々だったが、報告を聞く限り、確かに立香のような相手が一番効果的な感じのする人物像に思えた。
それはそれとしても、これだけの女神を仲間に引き入れるその力は、魔術師などでは到底できない所業だ。
ケツァル・コアトルとの戦いにおいても、立香は太陽石を壊さずに覚悟を示す形を取ってくれた。
「唯斗の我が儘なんて滅多に聞けないから嬉しかったよ。もっと言ってね。そうだなぁ、それも含めて、俺はそんな自分がすごいことしたとは思えないけど…レオニダス王が言ってた、魔術師としての素養は重要じゃないってやつなのかな」
「本当にその通りだと思う。まぁ、俺はロンドンのときから気づいてたけどな」
「それで唯斗は自分の命まで蔑ろにしたんだもんな〜」
立香はそう言ってぐりぐりと唯斗の腕を突いてくる。それを払いのけようとすると、フォウがやってきた。キュウキュウ鳴きながら、胡座をかく立香の膝の上に乗ってこちらを見上げてくる。
なぜか目が合ってしまい、しばし見つめていると、立香がフォウを撫でる手を止める。
「唯斗も撫でてみる?今まであんまり触れてこなかったでしょ」
「…一度もないな」
「モフモフだよ」
立香に誘われ、唯斗はついに、フォウの白く柔らかな毛並みに触れてみた。立香の太ももの上でおとなしくしているフォウは、「撫でさせてやる」といった感じで泰然としており、そのモフモフとした毛並みを撫でてみると、思ったよりも手が深く沈んだ。本当に柔らかい。
「うお…すげ、こんなん肩に乗せてたのか、立香もマシュも」
「可愛いでしょ」
正体がビーストであることを知っているとそう言い切れない感じもするが、可愛いのは確かだ。唯斗が頷くと、立香は小さく笑う。
「ほんと、変わったね、唯斗」
「なんだ藪から棒に」
「覚えてる?フランスにレイシフトしたとき、同じようにフォウのこと撫でてみるかってマシュが聞いたのを、唯斗断ったでしょ。最後の最後で、初めてなんだなって」
そういえば確かに、第一特異点にレイシフトしたとき、まだフォウがついてくることを疑問に思っていた頃だったが、マシュに撫でることを勧められたのだ。レイシフトした直後だったこともあり唯斗は断ったが、あれ以来、随分と時間が経ったのにこれが初めての接触となった。
思えば、フォウがレイシフトできていたのも、ビーストだったからなのだろう。
「…これが最後の戦いなんだなって思うと、なんか色々考えちゃうんだ。もちろん、このあと魔術王との戦いがあるわけだけど。そのあと、人理が戻ってから、カルデアや俺はどうなるんだろうって」
「……確かにな」