絶対魔獣戦線バビロニアII−17


翌朝、ついにマルドゥーク電撃作戦が始まった。

まず、北壁では人間の兵士とケツァル・コアトル、ジャガーマンによって陽動が行われ、杉の森に集結する魔獣たちを引きつける。
また、ケツァル・コアトルはキングゥの相手も受け持つ。

一方で、カルデア一行は先に杉の森へと直進し、鮮血神殿を目指す。残った魔獣を倒しながら森を進めば、鮮血神殿が近づき、マーリンが合図を送る。
その合図によってケツァル・コアトルがマルドゥークの斧をなんと手で投げ飛ばし、ビーコン代わりに杖でマーリンが斧を誘導、鮮血神殿に直撃させた。

ケツァル・コアトルは霊基こそ残っているがだいぶ神性を落とされたらしく、自らの意志ではないとはいえ他の女神に攻撃したと見なされたようだ。マーリンはこうなることを言わずに「私がなんとかしよう」と言ったため、これは後で締められるはずである。

こうして神殿は破壊されゴルゴーンの神性も低下、キングゥが北壁から戻ってくる前に、急いで神殿内部へと入った。

山の内側をくりぬくようにして造られた構造は、第三特異点で見たアステリオスの迷宮にも似ている。しかし決定的に異なるのは、壁一面は謎の繭のようなものに覆われており、一つ一つの繭の中に影が見えているということだった。


「いったいこれは…」


マシュはその中の一つに目を向ける。近くにいた唯斗も目線を繭にやったが、突然、内側からこちらに向かって助けを求めるように近づく影があった。それは、どう見ても人の姿をしている。いや、ギリギリ人間の原型を留めているというものだ。


「ひっ…!」

「な…ッ!」


唯斗も驚いて、そして本能でそのおぞましさを理解して、思わずアーサーの腕に縋ってしまった。アーサーも表情を険しくして唯斗を軽く抱き寄せる。
マーリンも表情こそ変えていないが、固い声音で「あまり見てはいけない」と諫めた。

最大都市ウルクの人口が8万人、その他の主要都市でゴルゴーンに滅ぼされたバビロンやキシュ、ボルシッパなど北壁の北側にあった都市を考えれば、10万の魔獣やこれまで北壁を襲ってきた魔獣たちの数と一致する。
人間を使って魔獣が生み出されている。その事実に愕然としていると、アーサーに肩を撫でられる。


「マスター、あまり考えてはいけない。今は目の前のことに集中しよう」

「…分かった」


様々なものを堪えて、全員で足を進める。
そして、アナの案内で神殿の最奥にたどり着いた。まるで大きな生き物の腹の中にいるかのような、広く不気味な空洞である。
中央には毒々しい紫色の光を放つ穴が空いていた。


「出てこいゴルゴーン!!」


立香が啖呵を切ると、すぐにその穴から巨大な姿が現れた。とてつもない威圧感で出現した巨人の女神、ゴルゴーン。
大きな音を立てて空洞一杯になって立ち上がった姿はこちらを睥睨した。


「…何かと思えば。いつぞや見逃してやった虫どもではないか」


その姿に、マシュが盾を構えて叫ぶ。


「なぜです女神ゴルゴーン!なぜこのようなことを!あなたは人間に復讐すると言った!それがこのようなことに結びつくのですか!?」

「結びつくとも。復讐に手段も結果もない。もとより我らには『何もない』のだから。ウルクを滅ぼす。人間どもを滅ぼす。それほどの憎しみを、私はお前たちに与えられた。その小娘は人の世の醜さを知らぬようだな。さぞ幸福な毎日を送ったのだろう」

「それは…っ!」

「そんな娘では話にならん。だが藤丸立香、雨宮唯斗よ。貴様らなら分かるであろう?復讐者を作り上げた人間たちの最後の一員よ。私の言葉に理を感じたのなら頷くがいい。マスターとして飼ってやってもいいのだぞ?」


ゴルゴーンは人間である立香と唯斗に話を持ちかけた。気まぐれなのだろうが、しかしゴルゴーンは、この期に及んで、僅かにでも理解を求めているのだろうか。いや、そんな殊勝なものではないだろう。彼女の憎しみは、そんな次元にはないはずだ。
立香は代わりに口を開く。


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