邪竜百年戦争オルレアンII−3
そのまま森を出立した唯斗たちは、東へと足を進めた。強化している唯斗は足にこそ疲れは来ていないが、体力は純粋に削られていく。トレーニングルームで体力向上に努めていた1ヶ月ではあったが、それでもなお疲れは来る。
一応、唯斗は立香の足にも強化をかけているが、本人の魔力ではないとかなり効果は薄れる。なのに立香の方がピンピンとしていて、基礎体力の違いを思い知らされた。
そうして歩くこと半日、すっかり昼となって太陽が照らす中、ローヌ川とソーヌ川が合流するところに位置する大都市・リヨンにやってきた。
事前にマリーが街で聞いた情報では、リヨンは守護者という屈強な人物がいたが、サーヴァントたちによって追いやられ行方不明となり、それによってリヨンは滅ぼされてしまったという。
リヨンまで陥落しているとなると、いよいよフランスは危うい。
廃墟と化したリヨンの街にたどり着くと、通信が乱れロマニの捜索が機能しないことが判明した。仕方なく、二手に分かれて探すことになった。
「では私たちは西へ行きますわ」
マリーとアマデウスは西回りを、ジャンヌは立香たちと東回りを選んだ。
「じゃあ俺はマリーたちと西から行く」
「分かった。気をつけて」
立香たちと離れて、リヨンの市街地に入る。
現代でのリヨンはフランス第二の都市であり、この時代はもちろん、マリーの時代である18世紀末においても大都市だった。フランスの金融の中心だった街で、美食の街としても知られる。
痛ましい廃墟となった光景に、唯斗でも眉をひそめてしまう。
「サン・ジャン大聖堂か…?まだ建設中だったっぽいな…それでもあんな…」
街のシンボルの一つであり、15世紀後半に完成するはずの大聖堂は完全に崩壊し、壁だけが残っている。まだ建設中だった木組みが無残に散っていた。
「…ねぇ、唯斗あなた、とても綺麗なフランス語を喋るけど、ひょっとしてフランスの生まれ?」
「……生まれは日本、小さい頃はフランスで暮らしてた。正直、俺はフランスが…」
そう言いかけたところで、うなり声が聞こえてきた。アマデウスが不快そうに見た方に向かって、唯斗は素早く大きめのガンドを放った。瓦礫とともにゾンビが吹き飛ぶ。
「くそ、市民をリビングデッドにしたのか。悪趣味だな」
「まったくだ。不愉快極まりない」
「…ええ、本当に。分散するのは危険だわ、立香たちに合流しましょう」
「そうだな」
マリーに賛成し、唯斗は立香たちと分かれたところへ引き返す。時折現れた敵をガンドで倒していく。これくらいなら唯斗とアマデウスだけで十分だ。
立香たちが戦っている音が聞こえてきて、唯斗たちは走ってそこに合流する。
「敵が多すぎる」
「俺も合流しようと思ってた!」
立香たちと一緒になり、現れた敵をともに倒していく。変わり果てた市民たちを倒しきると、ジャンヌは苦しそうに「安らぎがあらんことを」と祈る。
そこに、冷めた声がかけられた。
「安らぎ…安らぎを望むか…それはあまりに愚かな言動だ」
「サーヴァント…!」
現れたのは、顔の右側を血の滲む包帯に覆われた男。
男は頷いて自ら名乗った。
「然様。人は私を、オペラ座の怪人と呼ぶ」
ファントム、phantom of the operaだ。幻霊にあたるガストン・ルルーの小説の登場人物で、パリのオペラ座、ガルニエ宮殿に現れる怪物である。
サーヴァント戦ならば躊躇う必要はない。唯斗はエミヤを、立香はキャスターを召喚して戦闘に入った。
特に困難な目に遭うこともなく、比較的スムーズに戦闘は進んだ。どうにもファントム自身、戦いづらそうにしているように見えた。
そして事実、戦闘が終わると、ファントムは「務めは果たした。聖女よ、邪悪な竜が来る。果てまで逃げろ」と述べて消えていった。
やはりパリに現れる幻霊だけあって、ジャンヌには特別な思いを抱いている。フランスの英霊は皆そうなのだ。
光とともにファントムが消えると、戦っていたエミヤは戻らずに空を睨む。
「マスター、良くない事態だ」
「敵性反応か」
そこへ、通信が復旧してロマニの焦った声が飛び込んできた。
『全員撤退を推奨する!サーヴァントを上回る超極大の生命体反応が猛烈な速度でそちらにやってくるぞ!』
「サーヴァントを上回る…!?」
『さらにサーヴァント三騎も追随!』
「…彼らでしょうね。これは、困ったものですわ」
マリーも空を見上げて表情を曇らせる。
キャスターも感じ取ったのか、ため息をついて「こんなんばっかかね」と低く言った。
ロマニは撤退を進めるが、マシュ、そしてジャンヌは渋る。
「ここでサーヴァントを見捨ててしまえば、機会は二度と訪れないかもしれません…!」