絶対魔獣戦線バビロニアII−20


『なんだ…?シバが黒く変色して観測が…どうなっている!?立香君、唯斗君、そちらはどんな状況だ!?ゴルゴーンを倒して時代の危機は去った!なのに、なぜ、まだ第七特異点は存在しているんだ!?』


焦ったようにするロマニ。唯斗は嫌な予感がし始めた。
ギルガメッシュもマーリンも、まるでゴルゴーンとの戦いでは終わらないかのようなことを言っていた。マーリンは、「残念ながらゼロではない最悪の可能性」があるとして、それで唯斗の魔術回路を強化したのだ。

ロマニの声を聞いて、キングゥはニヤリとする。


「予定より早く決着がついてしまった。やり過ぎではあったけど、彼女はよく尽くしてくれた。だから…母さんが目を覚ますそのときまで、すこしでも長く生きていて欲しかったのだけど」

『っ!シバ02、06、09破損!時空震だ!メソポタミア世界すべてにおける空間断裂が起きている!一体何が…!?』


突如として、カルデアの観測に異常が生じた。特異点そのものは安定していたこの世界に、空間断裂が起きているのだという。これは異常事態だ。このままでは、第七特異点が空間ごと崩壊して人理が狂ってしまう。
何が起きているのかと唯斗は慌ててマーリンの方を見たが、それと同時に、マーリンは膝から崩れ落ち口から血を吐いた。


「ぐ…ッ!」

「マーリン!」


唯斗と立香が駆け寄ると、マーリンは杖に体を預けながら目を見開く。


「…しまった、そういうことか。化かし合いにおいて、一枚上をいかれるとは」

「そういうことさ、小賢しい夢魔。君は母さんに夢の檻を仕掛けることでその目覚めを先延ばしにした。しかし眠りに落ちた母さんは僕に聖杯を与え、第一の息子とした。となれば僕の仕事はたった一つ。いかにして母さんを眠りから引き上げるか、だったが…なに、簡単な話さ。生きているうちは覚めないのなら、一度殺してしまえばいい」

「ゴルゴーンがティアマト神の権能を持っていたのはコピーしたからではない、同調…本物のティアマト神と感覚を共有することで獲得した…!」

「そう。そしてゴルゴーンは今、死んだ。その死の衝撃は彼女にも伝わり、眠りから覚ましたのさ。さて、これで三女神による時間稼ぎは終わった。我らの母の姿、人間たちの原罪の姿をとくと見るがいい!」


キングゥは高らかにそう言うと、天井の穴から外に出て行った。後に残された空間で、唯斗は今し方の会話から恐ろしい事実に行き着く。


「……マーリン、お前まさか、ティアマトを封じてたのか…夢の世界に閉じ込めることで」

「そういうことだよ、唯斗君。君は、概ね理解しているね。いい、それで合っている。異世界のアーサー王、君は、もう正体まで分かっているだろう」


唯斗の隣にやってきたアーサーは静かに頷く。理解が追いついていないのは立香だけではなく、恐らく唯斗とアーサー以外の全員がそうだろう。いや、イシュタルは分からない。


『ペルシア湾海中に正体不明の魔力反応、一個体の魔力反応はウガルを上回る!数は…その、総数は……一億を超えて上昇中……こんなもの…カルデアに、人類にどうこうできるものじゃない…!』


ペルシア湾に出現した一億の敵性個体。その魔力量は魔獣を上回るものであり、じきに陸上に到達するだろう。


「まいったな。私の失策だ。余裕をつくるつもりが、事態を一つ早めてしまった」


マーリンがそう言うと、その体は光に包まれる。退去の光だ。もはやマーリンは、この世界に現界を維持できなくなっている。
まさかマーリンをこの状況で失うことになるとは思わず、唯斗はアーサーを見上げるが、アーサーは首を横に振った。もう、間に合わない。


「唯斗、いったい何が…」


立香は何が起きているのかと唯斗を見遣った。唯斗が答える前に、マーリンが最後の言葉を口にする。


「ギルガメッシュ王に伝えるんだ。グランドクラス7騎を以てしか対抗できない人理を食らう抑止の獣。生命の海、原初の母。七つの人類悪のひとつ、原罪の獣が目を覚ましたと」


その言葉を最後に、マーリンは光とともに消失した。

原罪の獣。思ってもみなかった存在の出現に、唯斗の思考も止まる。

ビーストの現界だ。


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