絶対魔獣戦線バビロニアIII−1
ビーストの現界という事態に、カルデアからの指示の前に立香と唯斗が動いた。
立香はイシュタルにウルクへ先行するよう指示し、唯斗もアキレウスを呼び出してアーサーとともにウルクに向かうことにした。立香たちがケツァル・コアトルの翼竜に乗って後から来る形だ。
遅れて、カルデアもラフムの侵攻状況を報告するようになった。アキレウスによる移動中、唯斗は通信によって立香に状況を説明する。ここからは、カルデアすら知らない魔獣の神秘の話だ。召喚術の名家だったから知っていただけで、唯斗とて深い理解のものではないが、今はそれでいい。
「立香、ビーストについては第四特異点で少しだけ触れたな」
『聖杯戦争やカルデアの召喚システムの原型になった、決戦術式だったっけ』
「そうだ。人類悪ビーストは、人類が乗り越えるべき悪のこと。人類を滅ぼすものではなく、人類が滅ぼすべきものだ。7種類のビーストはそれぞれの在り方に基づいた権能があるとされる。本来、ビーストの討伐はグランドクラスと呼ばれる、通常のサーヴァントより多くの権能を与えられた状態のサーヴァントでしか行えない」
『グランドクラス…でも、ここには本物の神霊がいる、それでも敵わないのかな』
「それは分からない。俺だって、ビーストなんて都市伝説だと思ってたくらいだしな。そもそも存在すら一般の魔術師には知られてない。いずれにせよ、この災害の獣は名実ともに世界を滅ぼす力を持ってる。今回、ティアマトはビーストとして顕現して、ラフム、神話においてティアマトの子とされる魔獣を大量に生み出した。これがウルクに到達すれば、一気に時代は崩壊する」
7つの人類悪のうち、ティアマトはビーストII、回帰の獣だとカルデアで観測されている。その権能は基本的にはティアマト神のそれであり、あらゆる生命を生み出す原初の母としての力だ。
大量の魔獣を生み出す権能によって、1億体を超える魔獣がペルシア湾から上陸してウルクを目指している。
唯斗もアキレウスの戦車に乗って、アーサーに支えられながら猛スピードでイシュタルに並走する形でウルクを目指すが、間に合うかどうか分からない。
『マーリンはどうやってティアマトを封じてたの?』
「マーリンは夢魔、あらゆる意志ある命を眠りにつかせて夢に閉じ込めることができる。その夢の中でマーリンは無敵だ。眠るティアマトの夢をマーリンがコントロールすることで、永遠に眠らせる状態にしてたんだ。でもティアマトは、魔術王に聖杯を与えられた際にエルキドゥを使ってキングゥを生産した。キングゥはティアマトの権能を共有する形でゴルゴーンに与えて、その神性を高めてメソポタミア北部を支配した。俺たちがゴルゴーンを倒したことで、共有された権能を通じてその死が連動してしまったことで、ティアマトは眠りから覚めた。その衝撃でマーリンも消失したんだと思う」
『そんなことが…そっか、だからソロモンは第七特異点に絶対的な自信があったのか。どう足掻いても、ティアマトが復活するから』
「そういうことだろうな…っと、そろそろ俺とイシュタルはウルクに到着する、迎撃態勢に入る」
『気を付けて唯斗君、すでに第一波がウルク南門に到達した』
通信を聞いて前方を見れば、ジッグラト越しに南門から煙が上がっているのが見えた。爆発音は迎撃によるものだろう。
イシュタルはウルクの様子を見て眉をひそめる。
「1匹あたりの魔力量がウガルを上回るなら、普通のウルクの防御壁じゃ持たないわ。急ぎましょう」
「了解。向かって左側から向かう」
唯斗の指示によって、アキレウスは戦車を市内南東部に向かわせる。これはギルガメッシュに挨拶している暇はないし、恐らく彼は状況を正確に理解しているはずだ。
イシュタルが南西部に向かったため、南門を挟むように市街地へと下りていく。
「くそ、やっぱ超えられたか…!」