絶対魔獣戦線バビロニアIII−3
通りに倒れる死体の数はすでに50人を超えており、それを平然と踏みつけながらラフムたちが迫る。ガウェインは怪物たちを睨みつけた。
「いえ、説明は不要。生かす道理はありません。参ります」
「頼んだぞ、アキレウス、ガウェイン」
すぐに二人は飛び出して、ラフムの群れに飛び込んだ。アキレウスの槍が一気に3体を薙ぎ払って建物の壁にぶち当てる。ガウェインも炎を纏った斬撃によって次から次へとラフムたちを切りつけていく。
1分もしないうちに15体のラフムが消滅した。
アーチャーであるアーラシュ、そして元から備わる力によって単独行動ができるアーサーと違い、ガウェインは普通のセイバーであるため、あまり唯斗から離れることができない。
そのため、戦車にガウェインとともに乗って、再びアキレウスと上空に戻った。
「なんと惨い…これが原初の母の行いですか」
「ティアマトを否定してこの世界ができたわけだしな。当然と言えば当然だけど、たとえ正当な理由があろうと許さない。それだけだ」
「…ええ、その通りです」
風を切りながら淡々と感情を押さえて言った唯斗に、ガウェインは肩を抱いて支えながら静かに返した。唯斗を落ち着かせようとしてくれているのが分かり、唯斗は深呼吸する。パッと見た限り、南市場周辺にもう生存者はいなさそうだ。
するとそこに、念話で焦ったような声が届いた。
(悪いマスター!ピンチだ!)
「っ、アーラシュから救難信号だ、アキレウス、ここから11時の方向!」
「おう!」
すぐにアキレウスは三頭の馬たちの舵を切り、南門の東側へと向かう。建物の上をスレスレで飛行しながら向かえば、ラフムたちの群れが見えた。
その中で戦っているのはアーラシュだが、様子がおかしい。
「アーラシュ…ッ!」
その体には、すでにラフムによるものらしい穴が腹に空いていた。もうすぐに消失するはずだ。
それでもアーラシュは、城壁に追い詰められた母子を庇ってラフムに攻撃を続けている。
「ガウェイン、後方から戦闘開始!アキレウス、あの親子を連れてジッグラトへ!」
「承りました!」
ガウェインは戦車から飛び降りると、剣を薙ぎ払って炎を扇状に放射した。ラフムたちを焼き払うのを追い越して、アキレウスの戦車は親子たちのすぐそばに着地し、ついでに数体のラフムを押しつぶす。
「後ろに乗ってください!」
「は、はい、ありがとうございます…!」
慌てて母子はアキレウスの後ろに乗って、アキレウスは二人を支えながら上空に飛び立った。
アーラシュは体がふらついて、唯斗は結界によってラフムを弾いてからその体を支えた。
「アーラシュをここまで…」
「悪い、マスター…つい体で庇っちまった、あいつら相当強いぞ」
へら、と笑いながらも、その口の端からは血が垂れる。もう回復でどうにかなるレベルではない。
「…ありがとな、アーラシュ」
「あぁ…っ、そうだ、マスター、一つだけ」
消失し始めたアーラシュは、城壁にもたれると唯斗の頬を撫でる。血がついた感触がしたが、その血痕すらも消えていく。
「ビーストと、目を合わせるな。いいな」
「っ!…分かった」
恐らく千里眼で見たのだろう。アーラシュは笑って頷くと、光に包まれて退去した。
ビーストと目を合わせると何かが起こるということだ。その言葉を胸に刻みつつ、ガウェインがすぐそばに着地したため結界を解く。
まだラフムは残っているが、今度は市内上空に翼竜の姿が見えた。立香たちの到着だ。
「もう少し踏ん張ってくれガウェイン」
「当然です。必ずお守りします、マスター」
すでに血のあとが消えた頬を一瞬だけ撫でてから、唯斗は左手をかざした。