絶対魔獣戦線バビロニアIII−4
立香たちがウルクに入り戦闘を開始してからすぐ、ラフムたちは唐突に街から出て行った。
どのような目的かは分からなかったが、深追いする理由もなく、ひと段落ついたことで共にジッグラトに向かうことにする。
アキレウス、ガウェインはカルデアに戻し、アーサーと合流してから立香たちとともにジグラットに入ると、多くの市民が逃げ込んでいた。すすり泣く声や家族を探す者の悲痛な叫びなどが聞こえてくる。
その中を進んで、見慣れた玉座の間に入ると、慌ただしくひっきりなしにギルガメッシュが報告を受けていた。
それを鬱陶しそうにはねのけて、ギルガメッシュは一気にそれぞれに指示を出す。そして、玉座から立ち上がると逃げ込んできた人々に向けて声を張った。
「皆の者!ついに滅びの時が来た!だがウルクと運命をともにする必要はない!生存を望む者は北壁へ、戦いを望む者はウルクに残りその礎となれ!刻限は夕刻までだ。家族、友人と別れを済ませておくように」
ギルガメッシュの言葉を聞いた人々は息を飲んでから、諦めたように立ち上がり、ある者は涙を流しながら、ある者は肩を落としながら、それぞれ玉座の間を後にしていった。
階段を下りていく人々の流れに逆らって玉座の間に入ると、ギルガメッシュはこちらに気付き手招きする。
「よくぞ戻ったカルデアの!状況は概ね理解している、端的に報告せよ」
人が捌けたギルガメッシュの前に進み出て、唯斗が報告した。より状況を理解しているためだ。
ギルガメッシュは唯斗の報告を受けても特に驚いた様子はなく、やはりマーリンやギルガメッシュがこれまで示唆していたことはこの事態だったのだと理解する。
「我の予想通りといったところか。カルデア、ティアマトは今どうなっている」
『ペルシア湾中央から動いていない。ラフムの集団もいったんはウルクを離れている。次の大集団はユーフラテス川河口付近に上陸中だ』
「なるほどな。我の見立てでは、まだティアマト神は目覚めてはいないが、それも時間の問題だろう。シドゥリ…いや、兵士長、あの敵性体を以降ラフムと呼称する、各部隊に伝えよ」
「あれ、王様…シドゥリさんは、」
すると、ギルガメッシュはいつものように玉座の横を見てから、なんでもなかったかのように別の男性に指示を出す。いつもそこにいたはずのシドゥリの姿がない。
立香はそれに気づいてギルガメッシュに尋ねるが、ギルガメッシュは黙殺して兵士に伝令内容を伝える。
「ギルガメッシュ王!」
「ええい喧しい!なんだ!」
「シドゥリさんは!」
珍しい立香の剣幕に、ギルガメッシュは一瞬沈黙してから、静かに答える。
「…シドゥリは市民を庇い、エリドゥに連れ去られた」
「な…ッ!」
「ちょっとそれ早く言いなさいよ!!」
息を飲む唯斗と立香、怒鳴るイシュタル。しかしギルガメッシュもまた珍しく、声を荒げてこちらを睨みつけた。
「この状況で民一人を案じてなんとする!!それとも貴様らは、そのうえで我に異議を申し立てると、そう言うのか!!」
ギルガメッシュの口調に滲んだ感情に、立香は間髪入れずに返す。
「助けに行きます」
毅然とした立香の態度を見て、ギルガメッシュは虚を突かれたようにしてから、ふっと小さく笑う。そして、いつものように右手を上げてこちらに指示を出した。
「ではエリドゥに向かえ!もとより貴様らは客人、ウルクの戦力として数えておらん!むしろエリドゥに調査隊を派遣する手間が省けた分だけ儲けものよ!」
「はい!王様!」
立香はぱっと喜色を浮かべて、マシュたちを振り返る。ケツァル・コアトルの翼竜で移動する形を取るのだろう。
唯斗はそれをちらりと見てから、ギルガメッシュに向き直る。
「俺はウルクの防衛にあたる。客人扱いのところ悪いけど」
「フン、政務補佐たる貴様も今や戦闘態勢となったウルクでは用済み。迎撃の任に着く栄誉を与えてやろう」
「あぁ。アーサー、立香たちと一緒に向かってくれるか」
唯斗がギルガメッシュの了解を得てからアーサーにそう指示すると、アーサーだけでなく立香たちも驚いたようにする。
「どういう意味だい、マスター」
「エリドゥに行った足で、直接ティアマトを見てきてくれ。近づく必要まではないけど、アーサーの目から評価が欲しい」
『なるほど…かつて二度に渡ってビーストを倒したという異世界のアーサー王だ、道理にかなっている。でも大丈夫かい唯斗君』
「最悪、何かあったら令呪で強制転移させるから大丈夫だ」
かつてない敵であるビーストに対して、こちらは少しでも多くの情報を必要としている。そのため、アーサーをペルシア湾に向かわせたかった。エリドゥまで行くのなら、ついでに立香たちにはペルシア湾の様子も見てきて欲しいのだ。
アーサーは唯斗の意図に、少し迷いつつも頷いた。こちらはウルクに残るため、立香たちよりは安全だからだ。
「俺たちは、アーサー王と一緒に、エリドゥでシドゥリさんを助けてからペルシア湾を見て来ればいいんだね」
「ああ、頼む」
「ウルクは頼みます、唯斗さん!」
立香とマシュも応じて、エリドゥ派遣組は翼竜に乗ってジッグラトを飛び立っていった。アーサーと離れるのはやや不安だが、今は踏ん張りどころだ。