絶対魔獣戦線バビロニアIII−7
日が傾き始めた頃、ラフムの第四波がやってきた。今までの軍勢に比べると格段に多く、恐らく本体だと考えられた。
すでに黒泥によってウル、エリドゥは壊滅しており、ラルサ、ニナ、ウルカグに接近している。
また、ラフムの数も一気に増えており、ラガシュやウンマ、ギルスでも多くの犠牲が出ている。それでもラフムたちは、基本的にはウルクを目指していた。
避難民を含めて10万人以上が滞在していたウルクは、すでに多くの市民が脱出を開始しており、北壁に向けて歩いている。だがその人々も何度も襲撃を受けているようで、いまだ北壁がウルク市民を受け入れた報告はない。
もはやこの平野に安全な場所などなかった。
南門のそばの城壁に立った唯斗は、前方から接近してくる大軍団を視界にいれた。あの数は、恐らく1万近くいるはずだ。あれが直接ウルクに上がればただでは済まない。
「オジマンディアス、」
「来てやったぞ。よもや己より古き時代に立つとは…しかしなんだ、この惨状は」
「ビーストが顕現した」
「……ほう」
唯斗の隣に立ったオジマンディアスはそれだけ言って、前方に見える軍団をその意志の強い目に映した。
「あれはティアマト神の子ラフム。一気に焼き払ってもらえるか」
「よかろう。あまりにおぞましい姿故な、余の瞳に映ったその不敬、断罪してくれよう」
オジマンディアスはそう言うと、燃え盛るメセケテットを背後の空中に出現させた。兵士たちは驚いてその宙に浮かぶ船を見上げる。
そして次の瞬間、その船から青白い光線が放たれた。光線はラフムの群れの直撃すると、左から右へと舐めるように焼き払っていく。平野は一瞬にして炎の壁が立ち上がり、夕暮れになろうとしている太陽よりも熱く輝いていた。
『すごい…!1万以上のラフムが3000体まで減っている!』
「ふむ、貴様、あの魔術師に回路を弄られたか。パスが強くなっている」
「あ、気付く?」
「余は神王ファラオ、知らぬことなどないと心得よ」
そう言ってオジマンディアスはがさつに唯斗の頭を混ぜ返すと、ふっと小さく笑う。
「生きたまま魔術回路を割かれるのはさぞ苦痛だっただろうが、よく耐えた。褒めて遣わす。また何かあれば呼べ」
「ありがとう」
オジマンディアスはカルデアに戻り、前方からは燃え盛る壁を超えてラフムの群れが迫ってくる。
唯斗は入れ替わりにアキレウスを呼び出す。
「何度も悪い、アキレウス」
「まさか。本当はずっとそばにいてやりてぇくらいだ」
現れたアキレウスは、もう何度も呼び出してしまっているが、まったく嫌な顔はしない。
戦車を出してもらい、再び空中に駆けだすと、市街地に迫るラフムを迎撃するべく空対地攻撃を開始した。
アキレウスの戦車に乗ってウルク南方で戦うこと5分、すぐにラフムたちは城壁に到達した。こればかりは仕方ない、数が多すぎる。
城門を破壊して入ってきたラフムたちと兵士が交戦するが、とても敵わない。
しばらく南市場周辺で戦闘を行ったが、そこに、悲鳴じみた伝令が入った。
「カルデア大使館の魔術師殿!」
呼ばれて振り返ると、血まみれの伝令兵が息を切らして立っていた。
「東門が破られました!多くの市民が逃げ遅れています、どうか…!」
「な…ッ、くそ、やられた…すぐ行く!」
唯斗は、話を聞いてすぐに戦車に飛び乗ったアキレウスの後ろに乗りつつ、兵士に治癒術式を一瞬で展開してから、アキレウスに指示を出す。
「東門へ!」
「了解!」
「頼みます!」
兵士たちにその場を任せ、唯斗とアキレウスは市街地を猛スピードで飛んで東部地区を目指す。
黒煙が上がる地区からは悲鳴や怒声が聞こえてくる。東に回り込んでいたとは、母たるティアマトが聖杯を得たからだろうか、ラフムたちの知性が急激に高くなっているような気がした。
東門からジッグラトへ続く大通りに着地した唯斗は、戦車から降りて逃げ惑う人々の先にいるラフムを見つける。すでにラフムは市内に散っており、建物の影や屋根の上からこちらを見降ろす姿も見えた。