絶対魔獣戦線バビロニアIII−12
「エレシュキガル、お願いがあるんだ」
「な、何かしら?」
お願い、と言われて嬉しそうな様子を滲ませるエレシュキガルだったが、次の立香の言葉に固まった。
「冥界に、ティアマトを落としたい」
「………はい?」
そう、命ある世界では死なない存在であるのなら、命のない世界であれば唯一の命ということになり、殺すことができる可能性がある。
冥界の入り口をウルクに持ってきて、ティアマトがやってきたところで突き落とすのだ。とてつもない提案に、エレシュキガルは当然、焦りを露わにする。
『む、無理も無理、絶対無理!ウルクの下に冥界を持ってこいって言うの!?』
「やっぱり無理か……」
『ま、まぁやるしかないのだけど』
「え、やるの!?」
『ま、まぁね。だって、そうしないとメソポタミアが滅びるじゃない…でも、二日だったかしら、ティアマトが到達するまで。うん、やっぱり無理。私の管轄であるクタだけでも大変だったのよ、こんな広い街、本来なら十年かけてもギリギリね』
できるかどうかで言えばできるそうだが、10年はかかると聞いてやはり無理か、という空気になる。
しかし、エレシュキガルは少し言いづらそうにしながらも続けた。
『…まぁ、実はウルク憎しでずっと前から企んでたから、三日もあれば準備できるんですけどね!』
「本当!?すごいエレシュキガル!!」
『そ、そう?地道に毎晩呪ってきた甲斐があったのだわ!』
なんと、エレシュキガルは冥界の移動を地道に行ってきたため、三日あればウルクに門を開けられるのだという。立香は純粋に褒め称えたが、ギルガメッシュは笑いながらも口元を引き攣らせる。
「ふはははは見事だエレシュキガル!だが貴様には後で話がある!」
ギルガメッシュは鏡を消失させる。盾のホログラムも消えて、玉座には元のかがり火の明かりが戻った。
明るい炎の光に包まれる玉座の間で、一同は引き続き丸くなって会議の大詰めに入る。
『これは行けるんじゃないか?ロマニ』
『あぁ、もしかすると、もしかするかもしれない!』
「あとは時間の問題だな」
カルデアも同意を示し、唯斗は差し引き一日をどう保たせるか、という話に場を移行させる。
だがギルガメッシュは不敵に笑う。
「案ずるな。もはや勝ち筋は見えた。こちらにはイシュタルがいるのだからな」
「…あぁ、グガランナか。全盛期のギルガメッシュとエルキドゥ二人がかりで倒したっていう、メソポタミア最強の神獣」
すぐにその意味するところに気づき、ティアマトと張り合える神獣グガランナのことだと指摘すると、イシュタルはぎくりとする。
唯斗の言葉にケツァル・コアトルやジャガーマン、マシュもパッと顔を輝かせてイシュタルを見遣るが、イシュタルはエレシュキガルそっくりの仕草で言いづらそうにしてから、髪をかきむしって叫ぶように言った。
「あーもー!ないの!」
「…なんて?」
「落としたの!どっかでなくしちゃったのよ、グガランナ!!」
立香とマシュは思い当たるところがあったようで、げんなりとする。どうやらイシュタルは、グガランナを紛失したらしい。落とすようなものではないと思うのだが、ないものはない。
ギルガメッシュは目をカッと見開いた。
「こんのバカ女神があああ!!!何のために貴様をスカウトしたと思っている!!」
結局、会議はそこで手詰まりとなってしまった。
イシュタルは「私は駄目な女神です」と書かれた粘土板を持たされて玉座の間の隅に立たされており、他のメンバーで話し合いを続けようとするも、誰も手段が浮かばなかった。
たとえエクスカリバーを解放しても、さすがに一日は厳しい。復活が一瞬で済むティアマトが相手では、力の強さではなく、耐久性の方が重要だからだ。
気まずい沈黙が落ちると、ギルガメッシュはため息をついて歩き出した。
「…よい、いったん解散とする。焦っても仕方ない、藤丸たちの疲労も限界だろう。このあたりで骨休みだ。夜明けまでの僅かな時間だが、各々十分に英気を養っておけ。我らは諦めて眠るのではない、明日を生き延びるためにこの夜を過ごすのだ」