絶対魔獣戦線バビロニアIII−13


休め、とは言われたが、立香は最後に大使館を掃除すると言って街に戻っていった。マシュやケツァル・コアトル、ジャガーマンもそれについていき、イシュタルもどこかに飛んでいった。
残された唯斗とアーサーは、最後までギルガメッシュの手伝いをすることにして、今はエレシュキガルのフォローのために冥界の地図とウルクの地図を対応させる作業をしている。

巫女所にあった冥界の地図が描かれた大量の粘土板をアーサーが抱えて、ウルクの地図が描かれた部屋に運ぶ。一往復では効かないためアーサーは何度も往復している。
一方、唯斗はその部屋でアーサーが持ってきた石版を復元して、一つの巨大な地図となるよう並び替える作業を兵士とともに行っていた。
巫女たちも北壁に逃げたため、今や市内には兵士しか残っていないのだ。


「あなたがウルクに残ってくださって本当に助かりました」

「…いきなりどうした」


数人の兵士と手分けして粘土板を床に並び替えていると、隣にいた兵士がそう言ってきた。なんのことかと彼を見上げると、若い兵士は快活に笑う。


「シドゥリ様の代わりに王を支えてくださり、こうして我々の手伝いまで。それに、ラフムの襲撃でも街を守ってくださいました」

「……その言葉は嬉しいけど、助けられなかった人ばっかり、頭に浮かぶ。シドゥリさんだって」

「いえ、シドゥリ様は分かっておられました」

「え…」


しかし兵士は意外にもそんなことを言った。どういうことかと目を丸くする唯斗に、兵士は、シドゥリがジッグラトを離れたときのことを教えてくれた。ちょうどそのときに玉座の間にいたらしい。

最初の襲撃のとき、唯斗はイシュタルとともに市街地南部にいた。ジッグラトには立ち寄らずに北壁からまっすぐ戦闘に入ったため、シドゥリが市民の誘導のためにジッグラトを降りたことを知らなかったのだ。

シドゥリは、混乱するジッグラトにおいて、人手が足りず誘導が追いつかない市内南部に自ら向かうことをギルガメッシュに申し出た。
それに対して、ギルガメッシュはかつてないほどの剣幕で「ならぬ!」と最初は否定したのだという。


「王は、未来予知のお力を持っておられます。シドゥリ様も当然それをご存知でしたから、王の剣幕に、ご自身の運命を悟ったのです。その上で、シドゥリ様は、それでも市民のために街へ降りると申されました」

「…自分がどうなるか知って、それでも、一人でも助けるために……」

「ええ。それを理解した王は、承服されたのです。シドゥリ様は使命を果たし、王もそれを支持した。であれば、唯斗さんの救えなかった命などではないのです」

「……ありがとう、その話を聞けて、本当に良かった」


礼装の袖で目元を拭って答えた唯斗に、兵士が優しく笑った気配がした。
続けて、「王は玉座の間におられます」と教えてくれたため、唯斗はもう一度礼を述べてから、玉座へと向かった。

玉座の間に入ると、ギルガメッシュがちょうど一人で玉座の脇に積まれた石版を睨んでいるところだった。他に誰もおらず、一人で山と積まれた石版を捌いているのだと分かる。


「……手伝う」

「唯斗か」


特に拒否しなかったため、階段を上がってギルガメッシュのすぐ隣に立つ。
やはり、大きな戦いを前に「いつも通り」の行動をしようと思ってしまうもので、石版を振り分けて要点をギルガメッシュに報告する。

そうした補佐を行っていると、ギルガメッシュがふっと小さく笑った。


「シドゥリの教育の賜物だな。良い手際だ小間使い1号よ」


褒めるというよりはからかうようなそれだったが、唯斗は兵士に教えてもらったことを思い出す。


「…シドゥリさんのこと、聞いた」

「そうか」


ギルガメッシュは淡々と返した。感情が乗っているものではなかったが、それで良かった。


「…俺、この場所に立ってあなたの補佐ができること、誇りに思うよ」


すべてを知ってシドゥリを送り出したギルガメッシュは、正真正銘、王なのだ。それを知って、唯斗は、これが誰かに敬服するということか、と内心では思っている。それほどまでに、ギルガメッシュの王としての強さに敬意を持っていた。

そしてきっと、それはシドゥリも同じだっただろう。いや、ウルクの人々すべてがそうだったはずだ。

そこまで言葉にすることはなかったし、唯斗の立場からシドゥリやウルク市民の立場を代弁するようなこともしようとは思わない。ただ、この場に立たせてもらえた者として、感想を述べるに留めた。
そういう機微もすべて理解した上で、ギルガメッシュは口元を緩める。


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