絶対魔獣戦線バビロニアIII−14
「貴様のサーヴァントとして召喚に応じてやったこと、まさに慧眼だったな」
「アーチャーのギルガメッシュが邪魔したから俺の召喚に割り込んだんだよな?」
「不敬。素直に受け取らんかたわけ」
呆れたようにするギルガメッシュだったが、持っていた石版を脇に置くと、静まりかえる玉座の間を見渡す。
「…半年前。魔獣戦線を構築した頃、ここで我は人理を修復するお前たちの存在を理解し、その召喚に応じることで様子を窺うことを選んだ。カルデアの時空では1年前に相当する時点であったようだがな」
「やっぱり偵察か」
1年前、第三特異点から帰還した後の召喚でギルガメッシュたちが現れた。
キャスターのギルガメッシュは唯斗の予想通り、カルデアの偵察のためだったらしく、時空にずれはあったものの、魔獣戦線の構築に伴ってこのウルクの危機に対処するべく召喚に応じたらしい。
面白そうだとアーチャーの霊基が割り込んだものの、それによってキャスターのギルガメッシュは唯斗のサーヴァントになった。なんだかんだ、それなりに長いこと一緒にいる。その間、いろいろなことがあった。
「本当に斯様な雑種と半端者が人理を救えるのかと疑問に思ったものだが、存外、貴様たちはよく旅をした。特にマスターである貴様の、張り詰めた弓のような空気になったかと思えば生娘のように恥じらい、脳筋ぶりを発揮する一方でよく思考も巡らせる、そんな多面性が興味深かった。表情のくるくる変わる藤丸と違い、貴様はもっと大きく揺らぐにも関わらず、しかしその軸は決してぶれなかった」
「……なんか、そういう評価聞くのちょっと恥ずかしいな」
まさかギルガメッシュからこんな評論を聞かされるとは思わず、唯斗は石版で顔を隠す。ギルガメッシュは「そういうところだぞ」と言いつつ、怒ることはなかった。
「その歴史への敬意も、それを居場所とするしかなかった過去も、その孤独を覚悟しながら世界のために戦う意思も、英霊の矜持を守ろうとする誠意も、すべて悪いものではなかった。我やシドゥリ、そしてウルクとこの文明への優しさの発露もな」
座ったまま、ギルガメッシュはこちらを横目に見上げる。その紅の瞳は、普段よりかなり和らいでいるように見えた。やはり、先ほどの唯斗の言葉の真意を正確に理解してくれている。
「お前を見て、マーリンも力を貸した。そしてそれによって、お前は500人ほどしか助からなかったであろうところ、800人までその生存者を増やしてみせた。名だたる英霊が、何より騎士王が、お前に並々ならぬ思いを向けるも道理というもの。その強さ、誠実さ、褒めてやらねば王の沽券にも関わろう」
「そ、んな…」
謙遜するわけにはいかず、しかし正面から受け止めるには、ギルガメッシュの言葉はあまりに嬉しくて、どう反応すれば分からなくなる。
一方で、救いきれなかった人々のこともあって、素直に受け取れないというのもあった。
「…まだ俺は、そんな自分のことを肯定的に考えられない。それに、助けられなかった人たちのことだって。もちろん、そんな感傷は、半年間戦い続けたウルクの人々には不要だと分かってる。それを理由に自分を卑下することは絶対にない。ただ、そうだな、どう反応すればいいのか、分からない」
それが正直なところだ。ギルガメッシュも唯斗の言葉に対して違和感はなかったらしく、一つだけ頷いた。だから、唯斗は素直な気持ちを伝えることにした。
「歴史が孤独だった俺を支えてくれた。あなたがいたから歴史が生まれた。それなら、俺がここにいるのはギルガメッシュのおかげだ。そんなあなたに褒められるのなら…俺は、生まれてきて、幸せだったんだなって思える」
ギルガメッシュは唯斗の言葉に一瞬だけ目を見張ってから、おもむろに唯斗を抱き寄せた。
思い切り抱き寄せられ、玉座に座ったままのギルガメッシュの膝の間に立つような姿勢になり、鳩尾あたりにギルガメッシュの顔が触れる。
「な、ギルガメッシュ…?」
「…宝物庫に仕舞えぬ宝がまた一つ増えてしまったな」
財宝だけでなく、このウルクやエルキドゥという友人、あるいはそうした記憶も、ギルガメッシュにとっては宝であり、それらは宝物庫にしまえないものなのだろう。
ギルガメッシュは唯斗のこともその一つに数えてくれるらしい。
「…大切にされてんな」
それに対してそう答えると、ギルガメッシュは体を離し、急に立ち上がって正面から抱き締められた。今度はその晒された体に包まれることになり、目の前に首筋と黄金の首飾りがくる。
「まったく、この鈍感小僧め」
「な…っ、」
「貴様が愛しいと言っておるのだ、たわけ」
そして、耳元でギルガメッシュはそう囁いた。低い声で告げられたその言葉に、唯斗は目を見開く。
まさかそんなことを言われるとは思わず、急速に顔に熱が溜まっていくのが分かる。
「えッ、と、その、」
「今宵は時間がない故何もせぬが、覚悟しておくんだな。我はすべて記憶を保つ性質だ、カルデアに戻ってから隙を見せぬことだ」
おかしそうにするギルガメッシュだったが、からかいだけでない本気の感情が紅の瞳に見えていた。
「わ、分かったから仕事戻るぞ」と咄嗟に言った唯斗を逃がしてくれこそしたが、次も逃がしてくれるかは分からない。バクバクとする心臓を押さえつつ、唯斗は定位置となった玉座の横に戻った。