絶対魔獣戦線バビロニアIII−16


ティアマトと正面から衝突することを避けつつ、ラフムの群れの薄い部分を通るべく、一同はナピュシテムの牙から空路に切り替えてギルス上空に差し掛かった。

唯斗はアーサーとともにアキレウスの戦車に乗って飛んでおり、立香とマシュ、ケツァル・コアトルはそれぞれ翼竜に乗って、イシュタルはマアンナで飛んでいる形だ。

眼下には黒泥に覆われた大地が広がり、もはやティグリス川の流れは見えない。その一角、かろうじて城壁が残っているのはギルスだろう。
アーサーとともにあの街を訪れて造成した遊水池も泥に沈み、飲み込まれた街は炎上していた。


「ギルスが…」

「マスター、大丈夫。ウルクはああならない」

「…そうしないように、俺たちがいる」

「その通りだよ」


思わずアーサーの袖を掴むと、唯斗の肩を抱いて支えるアーサーは安心させるようにそう言ってくれた。

空は低く黒い雲が立ちこめており、その向こうにラフムの軍勢が飛んでいるのが見える。ここから見えるだけでも数千体いるだろう。
そして、そのラフムに囲まれている巨大な女性体がティアマトだ。巨大な二つの角は羊のように丸みを帯びている。


「…数が多いなマスター、騎士王と分かれた方がいい」

「そうだな、アーサー、ケツァル・コアトルの後ろに」

「了解した」


アキレウスは肩を鳴らして槍を出現させる。ひっきりなしに戦闘となることが予想され、可動範囲を確保すべく、アーサーは翼竜のケツァル・コアトルの後ろに飛び乗った。
同時に、唯斗はエミヤを隣に召喚して、アキレウスと3人で戦車に乗る形となる。


「立香、離脱しやすい俺たちが先行する。以降は俺も立香も自分たちのことだけに集中する形だ、いいな」

『了解、気をつけて!』


距離が空いたため通信で伝えてから、唯斗はエミヤに支えられつつアキレウスに背中から呼びかける。


「先行する!突っ込め!」

「了解!なるべく姿勢を低くしてろよマスター!」


そして、戦車はスピードを急激に上げた。必死に縁に掴まりながら姿勢を低くすると、アキレウスは槍をその右手に携えて左手で手綱を握る。
エミヤも弓に剣を装填して構えた。


「マスター、我々の役割は道を作ることだな。それならば、細かい指示は不要だ。ラフムのスピードはもはやサーヴァントでしか捕捉できまい」

「分かった、フォローだけする。任せたぞ二人とも」


唯斗はアキレウスの後ろでしゃがみ、二人を見上げる形になる。
隣に立つエミヤと前に立つアキレウスがそれぞれラフムの迎撃を始めると、本当に指示を出すことができる段階ではないと実感した。

猛スピードでこちらにやってくるラフムの軍勢を、アキレウスが槍で薙ぎ払いエミヤも剣を射出するが、その速さは人の目では追いかけられない。

なるべく立香たちの前を飛行してラフムの群れに道を空ける役割だが、ラフムの数が圧倒的に多いため、本当に減らせているのか分からないほどだ。
とにかく状況を見守ることしかできない唯斗は、戦車の縁から空を見ながら二人に迫るラフムを注視する。

すると、その中の一体が下から急接近してきた。死角を突いたのだ。


鉄の人よ、天より来たれ(ドント フアラン デン ガント ネヴ)!」


咄嗟に戦車の下方に結界を展開すれば、ラフムはそれに激突して落下する。しかし様々な方向からそれに被さるようにラフムが接近していた。


「感謝するマスター!」

「いいから!」


それどころではない。エミヤは次から次へと剣を放つが、ラフムがどんどん近づくようになったため、剣を剣として使うようになり、接近戦が増えた。
アキレウスもそれを見てスピードを上げたりカーブしたりして距離を取ろうとするが、ティアマトに近づくにつれラフムの数も性質も上がっていた。

そしてまた何体かのラフムをエミヤが貫いた、その直後。


「俊足とはその程度か!!」


そんな声と共に、突然、エミヤの体が切り裂かれた。目にも止まらぬ速さでエミヤの胴体を正面から切りつけて飛び上がったのは、牛若丸だ。肌が黒ずんでおり、黒化した姿だと分かる。


「な…ッ!」

「アキ、レウス…マスターを…っ!」


エミヤはその言葉を最後に消失する。アキレウスは目を見開いてから、唯斗を自分の正面に引きずって移動させ、戦車の中央に立つ。


「ぜってぇ顔出すな!!」


アキレウスが緊迫した声で言った直後、その槍が鋭い剣を受け止めた。大量の牛若丸が黒泥から現れているのだ。
アキレウスの足に掴まりながら、激しくつばぜり合う牛若丸とアキレウスの戦闘に巻き込まれないよう息を詰める。こんなレベルの牛若丸が何体も現れているとは。

前方からやってくる牛若丸たちと戦うアキレウスだが、後ろががら空きだ。そこに牛若丸が気づかないわけがない。


(アーサー!)


念話で呼び出すと、すぐにケツァル・コアトルの翼竜からアーサーが飛び立ち、ラフムたちを足場にしてこちらに飛んできた。
直後、こちらに迫る牛若丸をエクスカリバーで吹き飛ばし、アキレウスと背中合わせに立った。


「後ろは私が」

「任せた!」


短く告げたアーサーが後ろから迫る牛若丸たちを、風王結界を解いて姿を見せたエクスカリバーによって次々と切り裂いていく。
アキレウスも前方からやってくる牛若丸たちを槍で叩き切っていった。


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