絶対魔獣戦線バビロニアIII−17


『唯斗!ケツァル・コアトルが宝具展開態勢に入った!離脱して!』

「了解!アキレウス、離脱!」

「おう!」


アキレウスは牛若丸を最後に薙ぎ払うと、一気に戦車を走らせた。アーサーが唯斗を支え、振り落とされないように耐える。あと少しで音速に達しそうなとてつもないスピードだ。

その30秒後、突然、煌々と輝く炎の明かりが平野を照らした。立ちこめる黒い雲と平原を埋める黒泥を赤く照らし、熱風が後ろから吹き付けてくる。
ケツァル・コアトルの宝具展開によって、ティアマトの足下の黒泥は蒸発し、マグマのようになった大地が広がる。これでティアマトは動けなくなるはずだ。

アキレウスはスピードを通常の速さに戻した。


『エネルギー、ティアマトの角に集中!これはまさか…!』

『飛ぶ、のか…あいつは……』


なんと、ティアマトは巨大な角に魔力を集中させ、それを拡張。大量のエネルギーを噴射することで飛翔を開始した。
これでは作戦の前提そのものが崩れてしまう。


『ケツァル・コアトルさん、宝具展開を中止して上空へ飛び立ちました!』


するとマシュが通信にそう報告した。立ち上がってアーサーの腕の中から上空を見上げると、ティアマトの頭上に輝くケツァル・コアトルが点となって見えた。
まるでそれは隕石のように輝きながらティアマトへと一直線に降下していく。第二宝具を展開しているのだ。
しかしあの熱量はほぼ隕石と同じであり、あれでは霊基の維持すら難しい。消失覚悟でティアマトの角を折ろうとしているのである。

ケツァル・コアトルの衝突によって、衝撃波が空を揺らす。戦車も大きく揺れて、アーサーに抱き締められていなければ落ちていた。


『…っ、だめだ、ティアマトの角はいまだ健在、侵攻を再開!』


立ちこめる煙で見えない中、ロマニの通信によってティアマトが再び動き出したことが告げられる。隕石の直撃と同じ質量をもってしても止まらないというのか。
それでは、オジマンディアスの宝具でも止めることは敵わないだろう。


『ナピュシテムの牙、崩落!黒泥ウルクに向かって流出!』

「アキレウス、崩落地点に急げ!俺が止める!」

「っ、了解」


アキレウスはすぐに戦車をナピュシテムの牙が崩落した地点へと急いだ。
地面に降り立つと、唯斗たちよりもウルク側に着陸した立香たちが驚く気配が通信越しに分かる。
すでにケツァル・コアトルの翼竜がいなくなったことで立香たちはウルク南門の南に着陸して走り出している。イシュタルだけが立香たちについていた。


『唯斗!何する気!?』

「結界で止め…なんだ、あれ」


唯斗は結界を展開しようと、大量の牙が地面から突き出した堤防の隙間から溢れる黒泥に手をかざしたが、その向こうに突如として巨大な蛇が立ち上がっていた。
両隣に立つアキレウスとアーサーは警戒態勢になるが、黒泥から現れた姿に全員が目を見張る。

それはゴルゴーン、紛れもなく女神ゴルゴーンの姿だった。しかし、隣に立つアーサーは息を飲んで驚く。


「あれは…ゴルゴーンの幼体の霊基と同じだ…」

「え……」


それはつまり、あれはアナがゴルゴーンとして現界し直しているということだ。


『ゴルゴーンさん、一緒に戦いましょう!』


マシュが叫ぶのが通信から聞こえてくる。その声を聞き取ったゴルゴーンは嘲笑った。低い声が黒泥の迫る大地に響く。


「笑わせるな。ラフムごときに手こずり、ケツァル・コアトルも破れ、そこなマスターに至っては魔力不足で指先が壊死仕掛けているではないか。小娘も盾を持ち上げるのも難しく、もう一人のマスターもティアマトの正面に立って結界を張ろうなどと抜かしておる。行け、貴様らなど不要だ」

『……うん、ありがとう』


立香がそれだけ返したため、唯斗は結界を張ろうとしたのをやめて、アーサーとアキレウスとともに走り出す。立香もすべてを理解した上で、ウルクへの撤退を決めたのだ。
それならば、唯斗も応じるべきである。

ナピュシテムの牙から溢れる黒泥に背を向けてウルク南門を目指す。ラフムたちをアキレウスとアーサーが両脇で倒しながら、ゴルゴーンが自身の前方に巨大な魔方陣を出現させ、そこから莫大な熱量の光線を発射するのを見届けた。

轟音とともに衝撃波が吹き抜ける。それに耐えるべく一度足を止め、腕を顔の前にやって風を受け止めつつティアマトを振り返る。


『…ゴルゴーン、霊基消失。ティアマトの右角も破損して飛行機能はなくなった。でも依然として黒泥は侵攻中、すぐにウルクに達するぞ!早く離脱するんだ!』

「アキレウス、立香たちのとこまで運んでくれ。ラフムの群れを突破してジッグラトまで走りきる」

「おう!騎士王は少しでもラフムを蹴散らしてから来いよ!」

「分かっているさ」


アキレウスは唯斗を抱きかかえて一瞬で駆け出し、瞬きの後に立香のところまで追いついた。


「立香!大丈夫か!」

「唯斗!」

「走るぞ!!」


立香、マシュと並んで走り出す。アキレウスとアーサー、イシュタルが周囲のラフムをどんどん蹴散らしていき、3人はひたすら走った。

扉が崩れた南門を超えて南市場に入る。崩れたテントや建物の上に立つラフムを一気にイシュタルが打ち落とし、道を塞ぐラフムをアキレウスの槍が薙ぎ払う。後ろから迫ってくる群れをアーサーがまとめて切り裂いて、カルデア大使館を過ぎた。
前方に見えるジッグラトの屋上には、ギルガメッシュが仁王立ちしているのが見えていた。


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