邪竜百年戦争オルレアンII−5


「…何を見つけたかと思えば、瀕死のサーヴァント一騎ですか。いいでしょう、もろとも滅びなさい。焼き尽くせ、ファヴニール!!」


ファヴニールはドイツ北部やスカンジナビアの神話に登場する、竜に化けるドワーフだ。また、ニーベルングの指輪においては竜に変身できる巨人族として描かれる。いずれにせよ、ジークフリートが伝承内で打ち倒した相手だ。
ファヴニールはその口から火炎放射を放った。こちらに押し寄せる巨大な炎によって、瓦礫が赤く照らされる。
慌ててマシュとジャンヌが前に出て、二人で盾を構えて炎を受け止める。弾かれた炎がこちらに来ないよう、唯斗は自分たちの前に結界を展開しつつ、弾かれた炎がマシュたちの方へ逆流しないよう両脇の瓦礫の山へと流す。


「ぐ…っ、50じゃ足りないか…!」


50枚の結界を重ねているにもかかわらず、しかも一度マシュの盾で弾かれたものであるにも関わらず、一瞬で結界のほとんどが消滅した。桁違いの力だ。
立香は横に立つキャスターを見上げる。


「キャスター、押し返せないか!?」

「無理だっつの!ありゃ神代のバケもんだ。俺も神代の英霊だが、物量がちげぇ」

「…大丈夫だ。だいぶ魔力が回復した。ありがとう」


そこに、そんな落ち着いた声が響いた。後ろで立ち上がったのは、ふらふらとしつつ竜を見据えるジークフリートだった。


「あんた、その状態で…」

「この状況くらいは打破してみせる」


ジークフリートの状態。それは、極めて悪質な呪詛がかけられているというものだった。何重にもなったその魔術は、とても唯斗では壊せない。聖人レベルのサーヴァントが必要だ。しかも怪我がその呪詛のせいで治りきらずにいる。
見上げる唯斗の目線に薄く笑い、ジークフリートは軽く唯斗の頭を撫でてから、ついにすべてが破壊された結界の前に出る。


「久しぶりだなファヴニール。二度甦ったなら、二度食らわせるまでだ…」


ファヴニールは炎を止めてたじろぐ。怯えているようだ。その様子に、ジャンヌ・オルタは目を見開く。


「蒼天の空に聞け!我が真名はジークフリート!汝をかつて打ち倒した者なり!宝具解放、『幻想大剣(バル) 天魔失墜(ムンク)』!!」


ジークフリートが掲げた大剣は眩く輝き、大空に向けて巨大な光線を放つ。邪悪を薙ぎ払うその光によって、ファヴニールは大きく空へと羽ばたいて逃げていった。
直後、ジークフリートはがくりと膝をつく。


「すまない、まだ一発が限界だ。戻ってこないうちに、逃げてくれ…」

「撤退しましょう皆さん!」

「エミヤ、キャスター、悪い、ジークフリートを頼む。立香、強化かけた。走るぞ」


急いで唯斗は魔術をそれぞれの足にかける。立香は頷いて走り出し、マリーも馬に乗って瓦礫を駆ける。エミヤとキャスターは文句を言いつつ、ジークフリートを両側から支えて走り始めた。ほぼ引きずっている。

リヨン市街地を抜け、草原を走ると、ファヴニールこそ追いかけてこなかったが、やはり追っ手はいた。
しかも悪いことに、前方ではフランス軍がワイバーンの群れに襲われていた。見て見ぬ振りも策だと唯斗は考えるタイプだが、ジャンヌと立香はそうはいかないであろうことは分かっていた。


「エミヤ、会敵までどれくらいだ」

「5分といったところだな」

「間に合わないか。立香、どうする」

「迎撃しよう。それしかない」

「…了解」


走るのをやめて、草原のただ中で止まる。そうすれば、すぐに追っ手がこちらに追いついた。
ジャンヌ・オルタに派遣されたサーヴァントは二騎、片方は紫の甲冑に全身を包んでおり、人語を喋っておらず意志疎通は不可能。バーサーカーだろう。

そしてもう一人は、両肩に馬のような金属の意匠をあしらった黒いコートに身を包んだ貴族のような格好の美青年だった。白髪に近いプラチナ色の髪に立香よりは薄い青い瞳、そして手に構える巨大な剣。
その姿を見てアマデウスは思いきり顔をしかめ、マリーも感情の読めない表情になった。


「まぁ、なんて奇遇なんでしょう。あなたの顔は忘れたことがないわ、気怠い職人さん?」

「それは嬉しいな。僕も忘れたことなどなかったからね。懐かしき御方。白雪のごとき白いうなじの君。そして同時に、またこうなったことに運命を感じている。やはり僕とあなたは、特別な縁で結ばれている、と。そうだろう?処刑人として一人の人間を二回も殺すなんて、この星では僕たちだけだと思うんだ」

「…生前のみならず、今回もマリアを処刑するつもり満々と来たか」


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