邪竜百年戦争オルレアンII−6
青年の言葉で、すぐに正体は分かった。マリーと同時期の人間であり、人類で二番目に多くの人間を処刑した処刑人、ムッシュ・ド・パリ。
「…シャルル=アンリ・サンソンか」
「ご名答さ予備員のマスター。どうやら本気でいかれてたらしい」
「……人間として最低品位の男に、僕と彼女の関係を語られるのは不愉快だな。アマデウス、君は生き物、人間を汚物だと断言した。僕は違う。人間は聖なるものだ。尊いものだ。だからこそ、処刑人はその命に敬意を払う。おまえと僕は相容れない」
淡々とした起伏のない言葉は、次第に怒りに染まっていく。きつくアマデウスを睨み付ける目線と若い姿は、フランスで語り継がれる処刑人のイメージと異なるようで、しかしやはりその語るところは共通しているように感じられた。
シャルル=アンリ・サンソン、フランス革命の起きた18世紀末にパリの処刑人として活躍した人物だ。当時、フランスでは担当地区が処刑人ごとに決められており、パリの処刑人はこの頃サンソン家によって世襲されていた。人々に疎まれる仕事ながら、処刑や拷問で培った現代的な医療によって儲けていた医者でもある。
ちょうどギロチンが開発されてしまったがために、本来は王党派で死刑反対、処刑人の継承を嫌がった人物だったにも関わらず、人類史上2番目に多くの人間を処刑した人物として歴史に名を残してしまった。
その処刑した人物の中には、ルイ16世とマリー・アントワネットも含まれる。
「人間を愛せない人間の屑め。彼女の尊さを理解しない貴様に、彼女に付き従う資格はない」
サンソンが詰ると、紫の甲冑のバーサーカーがマシュの盾を弾く。あまりに重い剣の一振り、生前は剣士だったようだ。
「フランス軍は私が救出します!」
ジャンヌはそう言ってワイバーンに襲われるフランス軍へと向かう。正直、ここでサーヴァントを失う方が痛手だ。唯斗はこの場に立香に任せることはせず、確実に敵性サーヴァント二騎を仕留めることを選んだ。
「立香、俺はサンソンに集中する」
「分かった。こっちのバーサーカーはなんとかする」
立香はマシュ、そしていったんジークフリートを岩にもたれさせ立香に合流したキャスターとともにバーサーカーに対峙する。
唯斗もマリー、アマデウス、そしてエミヤとともにサンソンと相対する。数は多いといっても、直接的な攻撃要員はエミヤくらいだ。
「…我が処刑の刃は清らかなるもの。お前たちのように死を受け入れないものに使うものではないが…思えば、今やこの国のすべてが処刑場。その首、一撃で切り落としてやろう!」
「アマデウス、攻撃よりもマリーと一緒にフォローに専念してくれ。いいな、一緒にフォローするんだ」
遠回しにマリーを守れと言っているのはアマデウスにも伝わっていることだろう。
唯斗はエミヤと並び立つと、サンソンの前に立ちはだかる。サンソンは不快そうにした。
「進んで処刑を望むか」
「あいにく、今のフランスはおろか欧州の大半の国は死刑制度を廃止してるんでな。お断りだ……死刑がなくなったのは、あんたのおかげなんだけどな」
「ッ…!」
サンソンは目を見開いたが、ひとつ深呼吸をすると、剣を構える。
「何を言おうと…僕は狂化状態だ。言葉に、価値はない」
「エミヤ、近接戦準備。宝具を使わせる暇を与えるな」
「了解した」
エミヤは両手に剣を出現させると、サンソンに対して近接戦を開始した。サンソンも迎え撃ち、剣と剣が交わる鋭い金属音が響き渡る。
どんな宝具かは分からないが、処刑人の宝具など展開されては困る。隣ではバーサーカーの攻撃をマシュの盾が受ける激しい音が響いていた。
しかしその後、突然サンソンは攻撃の手をやめた。エミヤは飛びすさり唯斗の元へと戻ってくる。
どうやら撤退のようだ。フランス軍に援軍の砲兵がやってきてワイバーンと応戦、カーミラはジャンヌと砲兵を両方とも相手取ることができず、サンソンとともに撤退を開始した。
しかしバーサーカーは言うことを聞かず、カーミラは置いていった。
残されたバーサーカーは「ランスロット」と呼ばれた。
「あれがランスロットとか…最悪だ」
フランス人でランスロットに憧れない少年はいないのではないだろうか。それほど、フランス語版のアーサー王伝説ではランスロットが持ち上げられている。
現実に幻滅しそうになるが、あれはバーサーカーだ。変転した英霊である。
なんとか全員でランスロットの撃滅に取りかかり、これを倒した。
最後にランスロットはジャンヌにアーサーの魂を見いだしていたが、すぐに光に包まれて消えていく。
こうして、なんとかこの場をしのぐことに成功したのだった。