絶対魔獣戦線バビロニアIII−19


このギルガメッシュは生前の姿だ。しかし、サーヴァントとしてのギルガメッシュのマスターである唯斗がここで黙っていていいわけがない。
立香の言葉通りだ。まだ、ウルクは終わっていない。負けていない。立香の言葉に奮い立った唯斗はアーサーに視線を向ける。


「アーサー!俺たちも今、本気を見せる時だ!」

「マスター…!了解した!」


唯斗は右手をアーサーにかざす。エクスカリバーを構えたアーサーは、ティアマトをまっすぐに睨み付けた。ギルガメッシュはニヤリとして唯斗たちを見遣る。


「令呪を以て命じる!ビーストを止めろ!!」


右手が輝き、サンソンに使った分が回復していたために残り二画となる。大量の魔力がアーサーに向かうと、アーサーはエクスカリバーを自身の正面に構えた。


十三拘束解放(シール・サーティーン)円卓議決開始(ディシジョン・スタート)!」


アーサーがそう言った途端、どこからともなく女性の声が響く。


『承認。ベディヴィエール、ガレス、ランスロット、モードレッド、ギャラハッド』


その声が、円卓の承認が行われていくことを告げ、騎士の名前が読み上げられる度に光を纏う聖剣が輝きを増した。


「…これは、世界を救う戦いである」

『―――アーサー』


そして最後に、アーサー自身が拘束を外した。これで13の拘束のうち半分以上が外れ、エクスカリバーはその力を解放される。


約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!」


輝く聖剣を構えたアーサーは、その宝具の真名を最後に解放した。下から上に薙ぎ払うように剣を振り払うのと同時に、エクスカリバーから超弩級の魔力光線が放たれる。
それは迫るラフムの軍勢をかき消し、さらにウルク市街地上空を突き進んでティアマトを直撃した。黄金の輝きが崩れゆく街を照らし、光の粒子が黒煙の間を漂った。


『ラフム6000体の消失を確認!ティアマトの左角破損、霊核一部損壊!霊基出力、および神性が一時的に低下した!黒泥とウルク市街の一部、城壁南端を蒸発させたことでティアマトは動きを止めている!』

「死をもたらさずとも、これだけのダメージは与えるか。さすがは聖剣と言ったところだな」


静かにギルガメッシュが言った通り、ティアマトはその胴体の大部分を崩壊させており、急速にそれは元の状態に戻っているものの、角も折れて動きを止めていた。
すぐに完全に復活するだろうが、今は動きを止めることさえできれば良かった。

さすがにふらついた唯斗は地面に膝を着いたが、アーサーは令呪によって宝具を解放したために自身の魔力をあまり消費しておらず、ピンピンして迫る残党のラフムを迎撃していた。


「唯斗、大丈夫!?」

「あぁ…っ!でもまだ、ラフムの群れが残って……あれ、」


なんとか立香に支えられて立ち上がると、こちらに接近するラフムの集団に向かう光が見えた。輝きながらまっすぐにラフムに迫るのは、美しい緑の髪を靡かせる青年の姿。


「あれは、キングゥ!?」


立香とともに驚いて見つめていると、ギルガメッシュもそれをじっと見ているのが視界の端に映った。聖杯の炉心はもうないはずなのに、なぜ動けているのだろうか。

キングゥは天の鎖を出現させると、ラフムたちをまとめて串刺しにする。さらにティアマトの正面まで飛び、その眼前に立ちはだかった。
光を纏い、ティアマトの足下にも光がさざ波のように現れる。バチバチと魔力がぶつかることによる雷が瞬き、そして、キングゥが光によってその姿を消した瞬間、巨大な鎖が地上から現れてティアマトを拘束した。

アーサーが吹き飛ばした分の黒泥はウルクの外からティアマトの足下に戻ってきていたが、それでもなお、ティアマトは鎖によって動くことができない。天の鎖は本来、ギルガメッシュを神々の元に引きずり戻すためのもの。何者も逃れられないものではあるが、原初の神すら押しとどめたのだ。


「あと数歩こちらに踏み込めば、このジッグラトは灰燼に帰す。だが悔しかろう、その一歩があまりに重い」


ギルガメッシュはすっと息を吸い込んで、その言葉を空中に溶かすように言った。まるでそれは、手向けるようなものだった。


「…さらばだ、天の遺児よ。以前の貴様に勝るとも劣らぬ仕事。天の鎖はついに、創世の神の膂力すら抑えきった。我は二度、友を見送った。一度目は悲嘆の中。だが此度は違う。その誇りある勇姿を、永遠にこの目に焼き付けたのだ」


やがて鎖は消失し、アーサーに与えられた傷も癒えたティアマトは再び動き出す。しかし、もう時間稼ぎは十分だった。


『ギルガメッシュ王〜!?こちらエレシュキガルだけど!ウルクの地下と冥界との相転移、完了したわ!』


エレシュキガルの地中からの声を聞いたギルガメッシュは、そのままイシュタルに視線を向ける。


「だ、そうだ。聞いていたなイシュタル!」

「もっちろん!後は野となれ花となれ!注文通り、その足下、容赦なくぶち抜いてあげる!」


イシュタルはマアンナに金星のエネルギーを装填し始める。慌てて唯斗はアキレウスを一度カルデアに戻した。巻き込まれかねないからだ。
アーサーが唯斗のところに駆け寄ってきたのを確認し、ギルガメッシュはこちらを振り返る。


「…胸に刻みつけておけ、唯斗、立香。この時代にあったすべてのものを動員しても、恐らくはここ止まりだっただろう。貴様らは異邦人でありこの時代の異物であり、余分なものだった。だが…その余分なものこそが、我らだけでは覆しようのない滅びに対して、最後の行動を起こせるのだ……時は満ちた。すべての決着は、貴様らの手に委ねるものとする」

『みんな衝撃に備えるんだ!』


通信からロマニが呼びかけた直後、イシュタルのマアンナから金星のエネルギーがこちらに向けて放たれた。


山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)!!」


立香とマシュが手を繋ぎ、アーサーが唯斗を抱き締める。その肩越しに、ギルガメッシュがこちらを見た。
目が合うと、ギルガメッシュはふっと小さく微笑んだ。それは今まで見たことのなかったような、優しく柔らかなものだった。

直後、辺りは光に包まれ足場が消失する。重力がなくなり、一気にすべてが闇に包まれた。


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