絶対魔獣戦線バビロニアIII−21
唯斗はティアマトの先に現れた気配に、その壁の先を見上げる。アーサーも目を見張っていた。
ビーストと戦うのはグランドクラスのサーヴァントと決まっている。アーサーのエクスカリバーを以てしても倒せない、その在り方という権能、回帰のビーストに対して死を与えられる人物。
「さあ天を見上げるがいい原初の神よ!そこに、お前の死神が立っているぞ!」
「グランド、アサシン…!」
びくりと止まるティアマトの視線の先には、ローブを纏った不気味な姿が立っていた。
その人物の低い声が唸るように冥界に響く。
「死なくして命はなく死あってこそ生きるに能う。そなたの言う永劫とは、歩みではなく眠りそのもの。災害の獣、人類より生じた悪よ。回帰を望んだその慈愛こそ、汝を排斥した根底。冠位など我には不要なれど、今この一刀に最強の証を宿さん」
「あれは…キングハサン…!?」
「だからお前はなんつー呼び方を…!!」
立香も正体に気づいたようだ。相変わらずの呼び方にめまいがしそうになるが、きっとそんなことを彼が気にすることはないのだろう。
「獣に墜ちた神といえど、原初の母であれば名乗らねばなるまい。幽谷の淵より、暗き死を馳走しに参った。山の翁、ハサン・サッバーハである」
ハサン・サッバーハ、暗殺だけでペルシアを統べた中世のアサシンにして、山の翁として第六特異点で協力してくれたグランドクラスのアサシンである。
立香が結んだ縁が、こうしてビーストに対する最大の天敵を呼び寄せたのだ。
ティアマトは本能だろう、黒い光線を放ったが、それを一振りでたたき切り、山の翁はティアマトを切り裂く。
その一撃で、翼は崩落し、神性が剥奪された。
『なんてことだ…!翼が切り落とされただけじゃなく、霊基パターンが通常のサーヴァントのものにまで落ちた!倒せる!今なら完全にビーストを消滅させられる!!』
「間に合った!状況は理解したわ!」
そこに空中からマアンナで急接近してきたのは、イシュタルだった。全員を冥界に突き落としてから、ようやく到着したらしい。
一瞬だけエレシュキガルを見て怪訝そうにしてから、すぐにティアマトに視線を戻す。
立香は令呪が残り一画となった右手をぐっと握って全員を見渡した。
「総攻撃だ!みんな、頼む!」
「まっかせなさい!行くわよマアンナ!!」
すぐにイシュタルは上空に飛び上がり、ティアマトに攻撃を仕掛ける。
マーリンも杖から光弾を射出し、エレシュキガルも紅の槍を空中から放った。
立香はランスロット、ヘクトール、酒呑童子を呼び出して、それぞれを散会させる。ランスロットの剣戟、ヘクトールの槍による突き、そして酒呑童子の酒が関節を壊死させる攻撃によってティアマトは悲鳴を上げた。
「アキレウス、ガウェイン」
「最終決戦だな、マスター!」
「ガウェインここに」
何度目かも分からない召喚であることもあって、アキレウスは状況を正確に把握しており、すぐに戦車に乗って上空からの攻撃に転じた。
「ガウェインはアーサー、ランスロットと一緒に関節を狙って攻撃」
「承りました!」
ガウェインはすぐに飛び上がるとティアマトに向かう。アーサーも共だって、ランスロットと3人でティアマトの腕や手を攻撃して切り裂いていった。それによって、壁を這い上がろうとするティアマトは僅かに落下する。
するとティアマトは、突然ラフムを放った。たった11体のそれは、飛行することができるところまではウルクにいたものと同じだ。
しかし、その一撃が酒呑童子を吹き飛ばして壁に叩き付ける。たったその一度の攻撃で、酒呑童子は消失した。
同じくイシュタルも吹き飛ばし壁に激突、瓦礫が降り注ぎ、その圧倒的な力に空気が変わった。
『そのラフム、一体一体が魔神柱に匹敵する!まさにティアマトの子、11人の子供たちだ!』
かつてキングゥが率いたという11人の子供たち、それがこのラフムだという。一体あたりの性能の強さは、これまで戦ってきたどの相手よりも強いだろう。
その目にも留まらぬ速さによって、一体がマシュを殴りつける。立香が庇おうとして、二人まとめて吹き飛ばされたが、壁に激突する前にマーリンの花びらが受け止めた。
「立香っ!」
唯斗は立香が怪我をしていないか視線を向けたが、その隙に、唯斗にラフムが迫っていた。まったく気配などなく、本当に僅か一瞬の速さだ。
息を飲む暇もなくラフムが手を振りかざしたが、それをマーリンが受け止めた。
激しい音とともに火花が散り、マーリンが右手に構えた剣がラフムの腕を受け止めている。
さらに、その横にアーサーが降り立ち、ラフムを突き飛ばした。
マーリンとアーサーが剣を構えて唯斗を庇うように立っている。