絶対魔獣戦線バビロニアIII−24


突然、ティアマトを中心にドーム状の空間が出現した。それに触れた生き残りのラフムが次々と消失していく。


『な…この反応は、まさか…!』


愕然としたロマニの声が聞こえてくる。マーリンも目を見開いてティアマトを見上げた。


「馬鹿な…!これは、世界新生…ネガジェネシス…!」


唯斗の隣に立つアーサーも息を飲んでおり、ビーストとして、その権能を最後に発動したのだと分かる。いや、それしか分からない。
一体何が起きているというのだろうか。

呆然としていると、エレシュキガルが剣を構える。


「天に絶海、地に監獄!我が昴とこそ冥府の怒り!出でよ、発熱神殿!」


ドーム状に広がる空間は赤い炎によって食い止められ、ティアマトの足下から大量の岩石が突き出していく。


霊峰踏抱く冥府の鞴(クル・キガル・イルカルラ)!」


岩石によってティアマトは動きを封じられ、空間の拡張は止まる。エレシュキガルは汗をかきながらそれを維持するが、その声音は固い。


「…これも時間稼ぎにしかならないわ。あの空間はまた再浸食を計るでしょうね」


ティアマトの最後の権能、ジェネシスという名前。そこから考えられるのは、ティアマトの創世神話そのもの。
唯斗はマーリンを見遣る。


「…マーリン。あれはつまり、世界の土台たるティアマトが作り出す、新しい世界秩序か」

「あぁ。あれこそティアマト最大の権能。あの空間に触れれば最後、すべてのサーヴァントは消滅する」


メソポタミア神話では、世界秩序の再構築を繰り返すことが神の交代を意味し、それはそのまま、覇権都市の交代のメタファーとなる。
ウルク(アヌ)エリドゥ(エンキ)ニップル(エンリル)バビロン(マルドゥーク)。そうやって覇権が代わっていくごとに神も代わっていく。

ギルガメッシュはマシュの盾を見て口を開く。


「…マシュ。あの忌々しい結界に対抗できるのは貴様の盾だけだ」

「そ、それで防げたとしても…!」


不安そうにするマシュに、立香も口を挟む。止めればいいというものではない。
マーリンも頷く。


「そう、マシュが止めている間に、ビーストにとどめを刺さなければならない。だが、それができるのは…」


マーリンは、立香、そして唯斗と順番に見遣る。


「ネガジェネシスは、旧来の生命を否定し新たな生命を生み出そうする空間だ。故に…生者のみがその存在を許される」


その場に沈黙が落ちる。
それが意味するところは、立香と唯斗、たった二人だけが、あの空間で戦えるということだ。


「…行きます」


ぐっと握りしめた立香の右手に浮かぶ令呪も、残り一画だった。もう、誰も彼もがギリギリなのだ。


「……立香、俺も行く」

「うん、一緒に戦おう。これが最後の戦いだ」


立香と目を見合わせて頷き合うと、ギルガメッシュがゲートから短刀を取り出して立香に投げる。


「これを持って行け。貴様は攻撃手段を持っていないだろう」


魔術が使える唯斗と違い、立香は攻撃できない。そのため、ギルガメッシュが宝具の短刀を渡したのだ。


「道は私が作ろう」


マーリンもバックアップに回るようだ。こちらの意志も方向性も決まった。あとは行動するのみ。


「マスター、私…」


しかしマシュは震えており、不安げにしている。マシュが支えきれなければすべては無駄になる。あの空間が冥界を浸食すれば、サーヴァントたちも全員が倒されてしまう。

立香はマシュの肩に手を置いた。


「マシュ、ただ前を向いて力を出し切るんだ。それだけでいい。後のことは、全部俺たちに任せて」

「…っ、はい!信じています、マスター、唯斗さん!」


そこに、ティアマトが動き出して石柱が崩壊し始める轟音が響いた。エレシュキガルの封印も長くは保たない。


「星の内海、物見の台。楽園の端から君に聞かせよう」

「真名開帳、私は災厄の席に立つ」


マーリンとマシュが宝具展開を開始する。立香と唯斗は並び立ってティアマトを見据えた。
すると、唯斗の肩を軽く抱いてアーサーが耳元に後ろから顔を寄せた。


「マスター、大丈夫。君と藤丸君ならできる」

「アーサー…」


優しいその声は、唯斗を守ろうとするものではなく、背中を押すものだった。騎士王たるアーサーに言われ、唯斗は奮い立った。


「さぁ、ここから先は君たち今を生きる者の戦いだ。行っておいで」

「…うん、行ってくる」


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