絶対魔獣戦線バビロニアIII−27
「…だから、珍しく熱くなってしまったわけさ」
『ファンやオタクにしてはやり過ぎだ。好きすぎてステージにまで上がるなんて』
「おやロマン君、最後くらい、ちゃんと送り出してくれてもいいんじゃないかな?」
ロマニの軽口に、同じく軽い口調で言ったマーリンに、ロマニは呆れつつも、口調を改める。
『まぁ、本当に今回は助かった。カルデアを代表して礼を言うよ』
「うん、本当にありがとう、マーリン」
「ありがとうございます、マーリンさん」
ロマニ続いて礼を述べた立香とマシュに、マーリンは少しだけ自嘲気味に笑う。
「…私も、少しはまともになったな。今までは、そんなお礼を言われても何も思わなかったものさ」
そんなことを言った右隣のマーリンを、唯斗はそっと見上げた。視線に気づいたマーリンは唯斗をきょとんと見下ろす。
「人間同士でだって分かり合えないことがあって、突き詰めればそれが戦争を起こす。だから、隣で笑って支えてくれたマーリンは、感情が再現に過ぎなかったとしても、少なくとも分かり合えない人間よりも近しく大切な存在だ。ありがとな、マーリン。会えて良かった」
「っ、そ、うか…」
唯斗の言葉を聞いたマーリンは、また珍しいことに顔を赤らめて頬をかく。
「…その、大切だと言われることはなくて。僕も、君と話せて良かった」
そう言ってマーリンはおもむろに唯斗を抱き締めようとしたが、それをがしりとアーサーが肩を唯斗越しに掴んで押しとどめる。動きを止めさせられたマーリンは不満そうにしたが、アーサーは力を緩めなかった。
「マーリン?」
「はいはい、分かりましたよ異世界の我が王。まったく」
「…まぁ、私からも礼を言おう。マスターのこと、色々とサポートしてくれただろう」
「老婆心というやつさ。異世界の君に対してのものでもあるのだけれどね」
「…?」
マーリンの言葉にアーサーは首をかしげるが、マーリンは答える気がないようで、椅子から立ち上がって手からピンクの花を一つ、立香に差し出す。
「…、これは?」
「気持ちだよ。私と、彼女からのね」
「…うん」
マーリンの花が咲き乱れる冥界を見届けた彼女に思いを馳せた立香は、微笑んで受け取った。
夜明けが近づき、解散となる。全員外に出ると、白み始めた星空の下、マーリンは光とともに花弁に包まれる。
「君たちの旅の終わりに、晴れ渡る青空が広がることを願っているよ」
そう言って、マーリンは姿を消した。カルデアの旅をただ一人、見守ってくれている男は、理想郷へと帰って行ったのだ。
こうして、特異点で出会ったサーヴァントたちとの別れは済んだ。あとは、最後に習慣となったジッグラトへの報告に行こう、ということになる。
きっとそこには王がいる。そんな直感があった。
ジッグラトに赴いて階段を上がり玉座の間へと入ると、玉座にはギルガメッシュが座っていた。
「ギルガメッシュ王!」
立香の声に、眠っていたのか瞼を上げる。
「……遅いではないかカルデア。うたた寝も過ぎれば体に障る。まぁ、体のないこの身では問題ないがな」
「キャスターとして現界し直したのか…」
なんとギルガメッシュは、唯斗のサーヴァントであるキャスターとして改めて現界してきたらしい。この古代王なんでもありである。
「光栄に思えよ。さて、夜明けだ」
ギルガメッシュはそう言うと立ち上がる。ボロボロの玉座を降りて、全員でジッグラトの屋上に上がった。
何もない開けた屋上に出ると、ティアマトを冥界に落とす直前にここで戦ったときのことが思い出される。
ちょうどこうして、立香とマシュと並んで屋上から街を見下ろしていた。
今、朝日が昇って廃墟と化したウルクの街を照らす。その有様は悲惨なもので、あの賑わいも繁栄も消え失せ、ただ、瓦礫の山と骸骨のような崩れた家々が並ぶだけとなっていた。
マシュは胸元に手を当てて街並みを見渡し、立香はふと、手に持った花を持って、ひび割れた屋根にその花を差し入れた。
ウルクの街に向けて手向けるようなそれを、静かにギルガメッシュは見守った。
「…傲慢だな」
「っ、ちょっとあんた!藤丸の気持ちを…!」
「事実であろう」
イシュタルはギルガメッシュを諫めるが、しかしギルガメッシュの声音に責めるような色は一切なかった。淡々と、立香を見つめる。
「だが理解はできる。死者を思うのは、生きるために必要なことだからな」
立香は立ち上がり、朝日を背に浴びながらギルガメッシュを振り返った。唯斗も隣に立つギルガメッシュを見上げると、ギルガメッシュは廃墟となった街に視線を移した。
「人は最後まで成長し続けるものだ。その最期の一瞬まで、心の有り様は積み重なっていく。人の歴史とは、そのようなもの。顔を上げよ。たとえ貴様らが、この時代で己が無力を嘆いたとしても、我が認めよう!貴様らこそが、必要なものだったと!この先何があろうと貴様らは、ただそこに立つだけで、正しいのだ」
あぁこれが、最古の英雄であり王なのだ、と唯斗は唇を噛みしめる。他ならぬギルガメッシュに言われるからこそ、立香も唯斗も、迷わずに立っていられる。これから控える最大の戦いに、立ち向かっていけるのだ。