覚悟−1
第七特異点から帰還した直後、カルデアの理論障壁に対して攻撃が始まった。
こちらが第七特異点の聖杯によって魔術王の座標を特定したのと同様に、向こうもこちらを識別したのだ。それによって、カルデアの座標が魔術王に特定され、カルデアは今もなお攻撃を受けている。
時間神殿と呼ばれるその空間は2016年の時空に存在しており、これより時間神殿へのレイシフトを計画、残る24時間あまりで突入する手はずだ。
現在、カルデアがカウントする本来の時間では2017年1月21日になっており、時の進みが極めて遅いカルデア内の時空は2015年の年末に差し掛かっている。
第七特異点探索中に急かされることこそなかったが、実際には、あと少しでカルデアの時空も2016年に到達して消滅する手前に来ているわけだ。もう、一刻の猶予もない。
そこで、最後の召喚を行うことになった。悪あがきもいいところだが、唯斗に至ってはアーサー以外全滅というところまで追い詰められたことから、一人でも増やしておきたいということだった。
いや、それは単に心の保険なのかもしれない。できることはすべてやって挑むという、人類存亡をかけた最後の戦いを控えた、少しでも安心を望む心理だ。
ただ、それは悪い結果にはならなかった。
立香の召喚では、第七特異点で間接的に縁が生まれていた天草四郎が、唯斗の召喚ではなんとマーリンが現れたのだ。
ルーラークラスは初めてのことだったため、特殊なサーヴァントではあるようだが、天草の召喚は考え得る限り最大の結果である。
一方、マーリンがやってきたことは、最後の最後にとんでもないのが来た、と騒ぎになった。
「あぁ、案内は不要だよ、見てたからね」と言ってカルデアの案内を断ったマーリンは、現在唯斗とともに管制室にいる。アーサーも監視と言って着いてきていた。
「本当にマーリンがいるよ…」
「嫌そうだねロマニ君」
「そりゃそうだ!これまで唯斗君のところは正統派が多かったのに、寄りにもよってマーリンだなんて」
所長席で不貞腐れるロマニと、それを見て苦笑するダ・ヴィンチ、ニヤニヤとするマーリン。唯斗は「それで、」と重要なところを切り出した。
「こんなタイミングで召喚に応じた理由は?てか、あんた死んでないのにどうやって出てきたんだよ」
「気になるかい?」
楽し気に笑うと、マーリンは唯斗の腰を抱いて引き寄せる。アーサーが軽く殺気立ったが、唯斗がその頬をつねってやった。
「いたたたた」
「さすがにこちとら、マスターとして責任がある。強制退去だって辞さないからな」
ここが引き際だ、と分からせるために本気の声音で言えば、マーリンは両手を上げて降参のポーズをとる。
その体から離れると、すぐにアーサーが唯斗を後ろから抱きしめた。それをなおも面白そうにしつつ、マーリンはようやく事情を説明する。
「来ようと思えばいつでも来られた、とは少し乱暴だが、技術的には事実だ。ただ、私がカルデアに行けたとしたら、実際には第五特異点以降だったろうね。あまりに縁が希薄だったから。私は唯斗君の推察通り、死んでいない以上、正式なサーヴァントではない。それはそこのアーサー王と同じだ」
アーサーも、異世界においてアヴァロンに到達した存在であるため、不死である。そのため、そもそも英霊になり得ないはずだった。
「そこのアーサー王は、別世界の私の魔術によって世界を渡り歩いている。そしてこの私も、魔術によってここにやってきた。召喚システムと第七特異点での縁を使って、そこに私の魔術を加えてね。これは召喚の真似事、実際には、アヴァロンから仮想召喚、あるいはビーストの単独顕現に近い形でここに来ている」
「無茶苦茶だ……」
「私は外道だからね。カルデアという一等席でこのグランドオーダーの行く末を見られるというのなら、道理も引っ込ませよう。所詮、世界の命運をかけた戦いすら、趣味で消費しているようなものさ」
相変わらずの様子だが、しかしカルデアに協力してくれることには変わらないらしい。それ自体は大変ありがたかった。
ちなみに唯斗の召喚で現れたのは、単に唯斗の魔術回路を弄った際に強く魔力の干渉を行ったことで、縁が強くなったからだという。当初は立香の縁で向かおうとしたが、天草に先を越されたようだ。
ただ、腹が立つことには変わりないため、唯斗はマーリンをジト目で睨んだ。
「来たこと後悔するくらいこき使ってやる」
「そんなに私と一緒にいたら他のサーヴァントたちに嫉妬されてしまうんじゃないかな?ほら、ディルムッドやサンソンあたりに」
「くっそ腹立つ、エウリュアレに頼んで自由を奪わせてからギルガメッシュの天の鎖で拘束してサンドバックにしてやる」
「おっと、そういえばアルトリアに挨拶しようと思ってたんだった。お先に失礼するよ」
そう言って一目散に管制室を出て行ったマーリンに、全員のため息が重なった。