覚悟−2


カルデアの中でも人気のないラウンジで、キャスター・ギルガメッシュは一人静かな時間の中でタブレットを見ていたが、現れた人影に、その人物が来ると分かっていながら不愉快になる。


「何の用だ」

「おや、私はゆく先々でそういう扱いなんだね。まぁ、それがどうということはないけれど、嬉しくて頼もしく思っているのに私の態度のせいで素直にそれが言えないマイロードは可愛いかったね」

「まったく虫唾の走るヤツよ」


キャスタークラスのギルガメッシュと再会するのは、実にゴルゴーン討伐の直前ぶりとなる。この世界から見れば遥か4600年前のことであり、カルデアではつい2週間ほど前だ。
つい先ほど、己のマスターである唯斗の元へサーヴァントという体裁で強引に現界した。厳密に言えば英霊ではないこの魔術師は、こんなことができている時点でやはりキャスターとして格が違う。こればかりはさすがのギルガメッシュも認めているところだ。


「ひどいなぁ。願わくば遥か先の未来でまた会えることを祈っているよ、と言ったから会いに来たというのに」

「我はカルデアにまで参上せよなどと言ったことはないが?それも、立香の方ならまだしも…」


ため息をついてギルガメッシュがテーブルに置いたタブレットは、唯斗の第七特異点におけるバイタル推移のデータを表示している。やはり、この男に魔術回路を増強されて以降、著しく改善していた。

マーリンはそれを見て笑みを深める。さすがに同じテーブルに着くほどの不敬はこの男もしないあたり、宮廷社会を弁えているが、その表情がもう癇に障る。


「…貴様、未来は見ないものと思っていたが」

「見ていないとも。保険だよ。君が珍しく気に入った子だったようだから。異世界のアーサー王もね。もちろん、あのままでもあの子は充分、生きるために必要な行動がとれただろうけど」


マーリンの言う通り、唯斗は魔術回路の強化がなかったらなかったで、ラフム4体を引き付けて戦うという手段はとらなかっただろう。ウルクも、あそこまで唯斗が頑張らなくても500人程度は生存できた。
それでもなお唯斗に魔術回路の強化を施したのは、もしもに備えた保険だと言うが、恐らくそれより大きな目的があるのだろう。それは間違いなく、異世界の騎士王のためだ。

ギルガメッシュはため息をついて、暗くなったタブレットをタッチしてアクティブにする。つい、データ画面に表示された唯斗の名前をなぞってしまい、文字列がコピーされてしまう。


「…私としては、よもや賢王があの子を人理修復後に連れ去ったりしないだろうか、なんて思ったりもしたんだけれど」

「たわけ。貴様と違い我は未来を見る。そのようなことは無意味だ。何より、異世界のマーリンが許さないだろう」

「だろうね。痛い目を見ないように念押しをしようかと思ったが、さすがにそれはお節介過ぎたかな」

「冷やかしと言うのだそれは」

「はは、言い得て妙だ」


のらりくらりと続く会話に、自然とギルガメッシュの眉間に皺が寄る。しかし、ジッグラトで玉座の横に立っていた唯斗が、「老後に残るらしいぞ、そういう皺」と余計なことを言ってきたのを思い出す。石板で小突いてやったところ、楽し気に避けていた。珍しく子供っぽい表情だったものだから、ぱっと思い出されてしまった。


「あの子のこと思い出しているね」

「…読心術など心得ていたか貴様」

「まさか。感情は読み取れるけれど…そんな野暮なことじゃないよ、ギルガメッシュ。もっと単純なことだ」


直接言わなかったのは、言えば間違いなくギルガメッシュがキレるからだ。よもや、顔に出ていたなどと指摘されれば何をしていたか分からない。


「それにしても本当に珍しい。まぁ、分からないでもないけれど、私も君も、藤丸君のような子の方が見ていて楽しいタイプだろう」

「見ていて飽きぬ面白味のある者は立香だろう。だが視界の端に留めておきたい者とは違う」

「へえ?」


本当に驚いた、という声を出したマーリンに、自分でも今のは直接的過ぎたか、とすら思う。
だがそれも事実である。


426/460
prev next
back
表紙へ戻る