覚悟−3
思えば、始まりからして意外性の連続だった。カルデアの偵察のために召喚に応じたところ、割り込んだアーチャーの自分を含め戦闘となり、唯斗は鋭利な空気を纏って戦った。本気の色だったが、直後、ギルガメッシュがサーヴァントとしてカルデアに助力する旨を伝えれば、途端に「本当に会えるなんて」と感動し始め、照れたようにしていた。
その空気の変わりように驚いていたが、その後、ロンドンでニコラ・テスラ相手に単身で挑み、重傷を負いながらも近代史を背負う英霊にそれを破壊させたくないと叫んだ。
唯斗の戦う原動力はそこにあるのか、とは分かっていたギルガメッシュだったが、その過去が夢となって共有されたとき、それが思っていたよりもずっと根深いものに起因するものだったと知り、聡明で凛とした大人びた空気を纏うくせになぜか純粋なところも持ち合わせているそのアンバランスさが、過去の出来事を原因とする人との関わりのなさによるものだったと知った。
なぜ、そんな苦しい思いばかりした世界のために戦うのか。次はそれを疑問に思っていたギルガメッシュだったが、第六特異点からの帰還後にひと悶着あった際、ようやく、歴史に触れることで居場所を得る感覚になっていたからだという答えを聞いた。
そうしてついに唯斗は第七特異点に至ったわけだが、玉座の横に置いてやった唯斗は実によく働いた。シドゥリもぜひ永久就職を、と進言するほどには唯斗は優秀で、知識というよりは頭の回転の速さが発揮されていた。
何より、ウルクの人々とともに、同じ人間として滅びると分かっていても戦うと述べて、言葉通り、いずれ歴史から消えさるシュメール人たちを一人でも助けようと奮闘した。そのために、生きたまま魔術回路を割かれるという苦痛を経験してでも、強くなろうとしたのだ。
ジッグラトでの最後の夜、シドゥリのことも、ウルクの人々のことも、その立場を代弁することはせず、単に自分の感情の範疇を出ない言葉で、ギルガメッシュの横に立つことができて良かったと言った唯斗に、機械のような人間だった唯斗が、ここまで感情の機微を繊細に扱っていることに驚いた。
第三特異点の後に唯斗と出会ったギルガメッシュは、そのころはまだ様々な感情や思いに触れ始めたばかりで戸惑い御しきれていなかった唯斗が、今ではすっかり人間らしくなったことに感慨深い気持ちになる一方、それが死した存在であるサーヴァントや、終わった時代の旅によるものだということに皮肉も感じている。
とはいえ、第七特異点に至る頃にはもう無気力人間とは言えないようなしっかりとした人物に成長したことを示した唯斗は、それでもなお、ギルガメッシュの「宝物庫に入れられない宝だ」という言葉に対してずれたことを返したため、そんなところすら、「愛しい」と言ったのである。
「…もとより興味深い人間だった。関心を持って見ていれば、意外性や多面性に面白味があった。ぶれない軸でまっすぐ誠実な性根のわりに、その感情は不完全だった。そうした感情の機微を獲得した末にウルクに至り、そしてその上で、我から始まる人の世4600年の歴史から己の居場所を得ていたのだから、その我に褒められるのなら幸せだと言った。この我を褒め称える言葉など、もはや聞き飽きてこの世には存在せぬものと思っていたが…斯様な些末な言葉に動かされる己を、存外悪くないと思ったのだ」
「……なるほどね。うん、彼の言葉が、どういう背景から出てきたものなのか、それをよく知るからこそということか。そんな彼だからだろうね、私の感情を、紛い物でも私にとって価値ある大切なものだと言ってくれた。彼自身がそれを実感しているから出てきた言葉だ」
そっとギルガメッシュはマーリンを見遣る。この男に限って、たった一人に執着するということはないだろう。いや、それができないからこそ男は生き続けられる。そんな人並みの感情を発露できるのなら、永劫にアヴァロンに幽閉されることなど耐えられない。
世界を一枚の絵画のようにしか捉えていないから生きられるのだ。
ギルガメッシュとて、唯斗を愛しく思う気持ちはあれど執着などはあり得ない。等しく、ただの人の子だ。死んだら死んだでそれまでと割り切るだろう。
だが、ずっと手元に置いておくことは、苦ではなかった。
「唯斗に魔術回路の増強を行ったのは、いつか来る、騎士王の現界をカルデアに依らずに維持すべき時のためであろう。未来を見ていない、などと、この我に嘘ギリギリのことをよく抜かせたものだ」
「そう怒らないでおくれ。かの騎士王は異世界の私が贔屓している。なら、この世界の私が君を贔屓しても問題ないはずだ。もしもお望みとあらば、彼だけを君の手元に逃がしてあげることもできるけれど?」
「フン、あれは手元に置けないからこそ価値があるのだ」
「とか言って、いざとなったらバビロン行きなんだろう?」
「いざとなったときはこの世界の終焉だ。そしてこの世界の終焉はやつらが歩みを止めたときだ。であれば、それは訪れることのない可能性だろう」
ギルガメッシュは否定も肯定もしないままそう答えた。マーリンはそれが一番聞きたかった答えらしく、にんまりと笑って恭しく礼をした。
「貴様こそ、その時が来たらアヴァロンに連れ去るつもりだろう」とは、それを言ってしまえば言霊となる気がして言うのをやめた。そんなことすらヤツには織り込み済みなのだろう。
それにも腹が立ったが、近々お灸をすえるために唯斗が天の鎖によるマーリンの拘束を指示してくることがギルガメッシュには視えていたため、今は逃がしてやることにした。
明日、世界は終わらない。
戦いは、良くも悪くも続くのだから。