覚悟−5
「ゴルゴーンとの戦いの前もさ、立香とグランドオーダーが終わったらどうするのかって話になったんだ。マシュは体がもう保たない。アーサーは別の世界に転移するかもしれないし、そうでなくてもそもそもサーヴァントだ。俺も立香も、いつか近い未来に来る別れってのを、意識しながらここまで来た」
「そうか…それで、藤丸君を一人にしない、と君が言ったのかい?」
「そ。まぁ、俺がわざわざそんなんしなくても、立香は帰る場所があるわけだけどな。でも、この戦いの記憶は俺たちにしか残らない以上、共有も共感も俺にしかできないことだ。そんな俺だから立香にしてやれることもあるんだと思う…なんて、この旅が始まった頃は、支えることなんてできないから自分が犠牲になる心づもりでいたのにな」
第二特異点にレイシフトする前、一人食堂で泣いていた立香を、唯斗はどうすることもできなかった。
そのあとのローマでアーサーに初めて話したことだが、そんな立香のために唯斗が唯一してやれることこそ身代わりになることだった。
その後、唯斗自身が成長する中で、第六特異点にて自分を犠牲にしようとして、初めてそれを怖いと思えた。死にたくないと思えるほど、唯斗は自分を大切にできるようになったのだ。
今となっては、立香に対して、唯斗にしかできないことがあると理解している。だから、北壁でそれを告げたのだ。
「…だから、どんな結末になっても、立香を一人にしないことくらいはできるよって言ったんだ」
「……そうか。君が、そんなことを…ふふ、なんだか少し、泣いてしまいそうだ」
「なんでだよ」
茶化した言い方ではあったが、その言葉の裏にはたくさんの感情が見えて、それだけずっとアーサーが唯斗のことを見守ってくれていたのだと実感する。
どんな表情なのか見てみたい気もしたが、それはさすがにデリカシーがないというものだ。
「では、ハッピーエンドのことを考えよう。もしカルデアの功績が称えられ、君たちが晴れて自由を謳歌できる日常に戻ったら、この先どうするんだい?」
アーサーの言う「ハッピーエンド」は元の生活に戻ることのようだ。唯斗はとりあえず、そのアーサーの切り出した会話に乗ることにする。
「…そうだな、考古学者目指すとか?」
「天職じゃないか」
「ウルクの記憶頼りにサマーワの発掘調査進めたら、より実際のウルクの復元図とか論文で出せるかもな。あぁでも、リヨンで竜と戦ったとか、イスラエルでスフィンクスと戦ったとか言ったら、頭おかしいヤツだと思われるな」
そう言いながら、唯斗は隣のアーサーに凭れる。その肩に頭を預けて目を閉じると、アーサーにそっと撫でられる。
確かにそれもハッピーエンドなのだろう。だが、唯斗にとって最も幸せなことは、きっと、この温もりをもっと長く享受することだ。
「……アーサー、」
「うん?」
「俺にとっては、アーサーの隣にいることが一番幸せなことだよ」
「ッ…!」
「そう思うことを止めないって、そういう覚悟をしたんだ」
アーサーは息を飲み、そして唯斗を力強く抱き締めた。肩に凭れる姿勢から、胸元に抱き込まれ、温もりに包まれる。世界で一番安心するこの腕の中に、一秒でも長くいられたら、それが一番幸せなことなのだ。
この戦いの終わりは、アーサーとの離別を意味するものとなるかもしれない。それを覚悟して、それでも、アーサーを特別に思うことをやめなかった。
いつか来る別れの日を覚悟して、唯斗はこの距離に踏み込んだ。それを、アーサーも同じく覚悟して応じてくれた。
「……頑張れるよ、全部、忘れない」
「ッ、マスター……」
人理が修復された後、どうなるか分からない。いずれにしても唯斗は孤独な生活に戻るだろう。
例えそうであっても、この温もりがある限り、唯斗は頑張って生きていけると思った。
なぜなら、この温もりが、生きたい理由を教えてくれたのだから。