終局特異点: 冠位時間神殿ソロモン−2


―――醜悪なものを見た。
それはどこまでも醜く凄惨で陰湿な、地球という惑星における最大の汚点にして最悪の存在。

人類。
人とは、斯くも醜くおぞましい存在なのだ。


そんな光景が通り過ぎた瞬間、アーサーの声が耳に響いた。


「マスター!しっかり!」

「…っ、アーサー…?」

「良かった…」


目を開くと、アーサーの端正な顔が視界に広がる。その背後には、満天の星空のようにも見える魔力の輝きと、これまで特異点で見てきた魔神柱、その合間に漂う岩や瓦礫があった。


「っ、着いたのか、立香は?」

「うう…っ、」


慌ててアーサーの腕の中から起き上がると、すぐ近くで立香とマシュが起き上がったのが見えた。
ごつごつとした岩山のような場所におり、ギリシャ風の石門が立っている。


『体に異常はないか?!』

「こちら雨宮、全員問題ない」


立香たちが起きたのを確認してロマニに答える。立ち上がって周囲を見渡すが、現状、敵性体は見えない。
空中に蠢いている魔神柱も、その一部であってこちらを認識しているようには見えなかった。

そこに、ダ・ヴィンチも通信に入ってくる。


『この反応は、メソポタミアで嫌というほど計測した反応だ。七つのクラスに該当しない霊基、人類悪と言われた災害の獣…クラス・ビーストの反応が、その空間を占拠している!』

「その通りだとも。勘が鋭くなったな、カルデア。七つ目の特異点を超えてきたその強運、今は素直に賞賛させてもらうよ」


やはり、ビーストで間違いない。分かってはいたが、やはり目の前にすると手先が震えそうになる。
すると、別の声がかけられた。全員、その声を間違えるはずもない。立香ですら、不快そうにする相手である。


「レフ…!!」

「やあ、久しぶり、というべきかな」


石門から現れたのはレフ、第二特異点でアルテラにやられたように見えたが、やはり完全に死んだわけではなかったらしい。


「だが挨拶の必要もなければこれまでの苦労話も結構だよ。いやあまったく…吐き気のするほどの生き汚さだ。どうしてこう、行儀良く死ぬ、なんて誰にでもできる簡単なことができないんだい?」


唯斗としては、会話など無駄であるためとっとと倒してしまいたかったが、マシュが「最初からカルデアを滅ぼすために所長に接近したのですか?」と尋ねたことで会話が続くことになる。
ただ、それはもっともで、確かにレフの開発したシバがなければそもそもレイシフトは不可能だった。レフがいなければカルデアは多くの命を失うことはなかったが、一方でレフがいなければ同様に人理を修復することもできなかったのだ。

そこには矛盾があるように見えたが、レフは醜悪な笑いで「3000年前から敵だった」とはっきり述べた。
魔術王は、紀元前10世紀から西暦2015年に至るまで種という名の呪いを魔術師の家系にかけて、その家系の者がそれぞれ担当する時代で魔神柱となって人理焼却を実行するという手はずだったらしい。


「…だがカルデアは生き延びてしまった。私の失態か?いや、それは違う。私の観察眼をすり抜けた食わせ者がいたからだ。そうだろう、ロマニ・アーキマン?私は君を過小評価していたようだ。それとも、そうなるように私の前では道化を演じていたのかな?だとしたら残念だ。私は君に友情を感じていた」

『そりゃそうだろうとも。君がロマニの人間性を見抜けたはずがない』


それに答えたのはロマニではなくダ・ヴィンチだった。


『何しろこの男は、私がカルデアに召喚されるまでずっと、周囲すべての人間を信用していなかったんだから。こいつは私と違って凡人だが、ある一点について他者を凌駕する!「理由は分からない」「誰が敵かも分からない」「そもそも本当に起こるのかどうか保証もない」、そんな夢に見た程度の人類の危機に、自分の人生すべてを投げ出した。誰が敵か分からないから誰も信じず、何を学べばいいか分からないから自分にできる範囲のことはすべて学習する。それがロマニ・アーキマンの10年間だ』


いったい、何のことだろうか。ダ・ヴィンチの言葉では、まるでロマニが人理焼却を事前に知っていたかのような口ぶりだ。
かつて第六特異点、アトラス院でホームズが言っていた。ロマニ・アーキマンは信用しない方がいいと。
それを鵜呑みにするつもりはなかったが、ロマニも、そしてダ・ヴィンチも、この魔術王による大事変を予期していたかのようなことを言っていた。

ちらりと唯斗はアーサーを見上げたが、アーサーは首を横に振る。今は気にしなくていいということだろう。
それもそうだ。そもそもロマニは、たとえ事前に知っていたのだとしても、その上で人類を救うために努力してきたというのだから、味方であるはずなのだ。それならば、細かいことよりも、目の前の男を滅ぼす方が先決だ。


「…まぁいいさ。今、我らの王は手が離せない。何しろ、あと数時間で最後の計算が終了する。本来なら貴様らなぞ放置してもよいのだが…ちょうどいい機会だ。私の不始末は、私がここで解決する」


すると、レフも同じ考えのようで、話を切り上げて醜悪な笑みを浮かべた。魔力が急速に集まっていき、空気が振動する。


「聞くがいい!我が名は魔神フラウロス!七十二柱の魔神が一局、情報を司る者!」


序列64位、過去・現在・未来のすべての質問に対して答える力を持つとされる悪魔の名を冠するフラウロスは、おぞましい魔神柱の姿に豹変した。


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