終局特異点: 冠位時間神殿ソロモン−4


凜とした声には、強い意志があった。意志そのものが人の姿をしているかのようだった。
彼女は唯斗にとって、グランドオーダーで人理を救うために戦おうと思えた最初のきっかけだった。


「あなたたちの戦いは人類史を遡る長い旅路でした。ですが、悲観したことは一度もなかったはず。だって、あなたたちには無数の出会いが待っていた。この惑星のすべてが、聖杯戦争という戦場になっていても、決して諦めることはしなかった。結末はまだ誰の手にも渡っていない、と。今もそれは変わらない。さぁ、戦いを始めましょう、マスター」


そんな言葉とともに、唯斗が結界を維持できなくなった瞬間、崩壊した結界の残滓ごと空中を切り裂く衝撃波。次々と立ち並ぶ魔神柱が消滅させられ、フラウロスは悲鳴を上げる。


「ぐあああ!!なんだ、なんだ今のは!?なぜカルデアがまだ残っている!?なぜ我々の体が消えているんだ!?」

『これは夢か…?計器の故障か?特異点各地に、次々と召喚術式が起動している!』


カルデアを覆っていた魔神柱8体は消失したようで、通信が回復する。そこから、ロマニの驚愕の声が聞こえてきた。


『触媒も召喚者もなしで自発的に!ただ一度、縁を結んだという細い糸を辿って!』

「あの旗は…!!」


立香が空中を見上げる。そびえ立つ石門のさらに上空に浮かぶ岩石に、勇ましく立ってその旗を空にはためかせる。
かつてオルレアンで彼女を見た者たちも、きっと同じ気持ちだったのだろう。

心の底から奮い立つような、そんな勇気だ。


「聞け、この領域に集いし一騎当千・万夫不倒の英霊たちよ!本来相容れぬ敵同士、本来交わらぬ時代の者であっても、今は互いに背中を預けよ!人理焼却を防ぐためではなく、我らが契約者の道を開くため!我が真名はジャンヌ・ダルク!主の御名のもとに、貴公らの盾となろう!」


そこに現れたのはルーラー、ジャンヌ・ダルク。第一特異点で共に戦い、唯斗にフランスの誇りを教え、フランスを、そして世界を守ろうと思わせてくれた、救国の聖女。

同時に、空を無数の流星が駆けていく。すべてサーヴァントだ。
アーサーはそれを見上げて息をつく。


「集められた星たち…これが、人類史の力か」

「…アーサー、立香、マシュ。もう俺たちを遮るものはない」

『あぁ、現在サーヴァントたちによる攻撃で魔神たちは身動きがとれない!今がチャンスだ!』

「…よし、行こう!!」


奮い立った立香は立ち上がり、前を見据える。あとは走るだけだ。これほどまでに安心できる道もないだろう。

石門を超えて、岩石によって構成された道を走り始める。
するとすぐに、最初の拠点、ナベリウスの管轄に突入した。ナベリウスは序列24位、自然科学や人文学に精通した悪魔とされる。

さらに、ナベリウスを中心に合計9体の魔神柱が出現した。

道を塞がれた途端、立香の隣にふわりとジャンヌが着地する。


「ここは我々が抑えます。どうか指示を。我ら反邪竜同盟、オルレアンでの活躍に今こそ報いるときです!」

「ええそうねジャンヌ!そしてヴィヴ・ラ・フランス、立香さん、唯斗さん!」

「マリーまで…!」


ジャンヌの隣に出現したのは、マリー・アントワネット。どうやらカルデアの英霊ではなく、第一特異点のマリーのようだ。
まさかまた会えるとは思わなかった。あの特異点限りのことだと思っていたからだ。
マリーは唯斗を見てふわりと微笑む。


「お久しぶりね、唯斗さん。また挨拶できて良かった。あのときは本当にありがとう、一緒に戦ってくれて。お返しをさせてくださるかしら」

「そんな…、俺こそ、あのとき助けられた…あなたとジャンヌがいたから俺は、フランスを、世界を救おうと思えるようになった。ずっと、お礼が言いたかったんだ」


こんな状況ではあったが、唯斗にとっては、マリーを残して離脱するしかなかったあのとき以来となるため、込み上げてきそうになるものがある。
マリーもジャンヌも、唯斗の言葉に微笑む。


「あのときも言いましたが…英霊として、その言葉ほど嬉しいものはありません」

「その通りよ唯斗さん。何より、また一緒に戦えて嬉しいわ」

「俺も会えて嬉しいよ」


立香もそう言って、ジャンヌとマリーは笑って返す。そしてマリーは、背後に手招きした。


「ほら、アマデウスもサンソンも!」

「…い、いえ、僕は合わせる顔がありませんから…」

「おお、なんてことだこの几帳面!この期に及んでまだ体面を気にしているとは!」


マリーに言われて現れたのは、アマデウスとサンソンだった。この二人も同様に特異点の彼ららしく、口論しながら現れつつ、サンソンは唯斗に気づくと表情を緩める。


「久しぶりだね、未来のフランスの子。あのときは迷惑をかけてすまない。そして君にまた会えて嬉しい」

「サンソン、」

「カルデアにも僕がいるのだろう。その記憶は僕にはないけれど…敵であった僕にも敬意を示してくれた君のために、道を切り開こう」


敵として3度の交戦をしたサンソンだったが、最後に唯斗は、法の執行と人権のバランスという概念を前に進めた偉人だとサンソンに言った。
そのときと同じく、サンソンは優しい笑みを浮かべて唯斗の頬をそっと撫でてから、大剣を構えて魔神柱に向き合う。

さらに、ジークフリート、ゲオルギウス、デオン、ヴラド3世、カーミラ、エリザベート、清姫、マルタも次々と出現し、全員で9体の魔神柱を相手にした。

それによって、魔神柱は倒されては復活するを繰り返しつつ、それ以外のことができなくなり、中央への魔力供給と離脱ができなくなる。


「我らでここの魔神柱たちを倒し続けます。あなたたちは先へ!」


ジャンヌはそう言って先へ進むよう指示した。
ジークフリートやデオン、サンソン、ゲオルギウスの剣が切りつけ、アマデウスとエリザベートの音楽という名の衝撃波が、ヴラド3世の槍が、カーミラやマリーの遠隔爆破が、清姫の炎が、そしてマルタの拳が魔神柱たちと次々と消失させていき、復活する合間に道が開かれる。


「ありがとう、ジャンヌ!」


立香は礼を言ってマシュとともに走り出す。
唯斗とアーサーも後に続くが、アーサーはジャンヌに向けて胸元に手を当てて微笑みながら小さく礼をする。


「ありがとう、フランスの聖女よ。君たちが、私のいない間のマスターを救ってくれたんだね」

「礼には及びません。あなたのような方がそばにいるのなら、私も安心しました。唯斗さんは、とても素敵な表情をするようになりましたから」

「ジャンヌ…、」


ジャンヌは最後にそう笑ってくれた。アーサーは唯斗の背中を押して前に促す。唯斗はジャンヌを一度だけ振り返る。


「ありがとうジャンヌ・ダルク!また会おう!」

「ええ!ご武運を!」


433/460
prev next
back
表紙へ戻る