終局特異点: 冠位時間神殿ソロモン−5
ジャンヌたちに後を任せて先へ進むと、フラウロスの管轄に入った。
石門をくぐった先の開けた場所に現れた9体の魔神柱が再び道を塞ぐ。
しかし、その前に立ちはだかるのは、黄金の髪を揺らして赤いスカートを翻す皇帝の姿。
「待たせたな、立香、唯斗。皇帝ネロ・クラウディウス、待望の再演である!」
アメリカで出会ったサーヴァントとしてのネロというより、第二特異点で出会った皇帝のネロのようだ。
「ネロ!来てくれたんだね!」
「ああ!委細はよく分かっていないが、とりあえずあれが敵なのだろう?」
第二特異点は、アーサーとの旅を始めた特異点だ。あの頃はまだ、唯斗は考え方が変わり始めたばかりで、立香とも衝突があった。さらに、立香の身代わりしか自分にできることはないと考え始めたのも第二特異点からだった。
ネロに続き、その場には次々とサーヴァントが現れる。呂布、スパルタクス、ブーディカ、荊軻、カリギュラ、カエサルと、特異点では敵だった者も含めて全員が揃っていく。
さらに、低く重々しい声が場に響いた。
「ネロ、愛し子よ。聞け。言葉を、天に轟く大号令を。今、ローマがお前と藤丸たちとを助けよう」
「その声は…!」
「
私である!我が槍、我が力、我が偉業のすべてを以てお前とその盟友の敵を打ち砕こう」
現れたのは神祖ロムルス、ネロの隣に現れたその威容は、それだけで周りを威圧する存在感を放っていた。
アーサーは一度、元いた世界で彼と出会っている。
ロムルスはこちらに攻撃をしようとした魔神柱をたった一撃で切り裂いた。ほとんど動きがなかったにも関わらず、魔神柱は真っ二つになっている。
「神の時代はことごとく終わるものである。かつては我らローマがその一端を証明してみせた。人の時代、それは浪漫である。人は人を愛するのだ。それこそが、私の願った浪漫である。ゆえに…証明せよ!戦え!勝ち取れ!お前たちには、すべてが許されている!」
ロムルスの号令とともに、雄叫びを上げてどこからともなくローマ兵たちが出現した。レオニダスの宝具でもあるまいに、これだけの数の兵士が亡霊として出現した。すべてはローマのために。永遠の都と謳われる、欧州の父なる文明のために。
「そうか…永遠たるローマの英霊たちこそ、確かにフラウロスを倒すに相応しいな」
唯斗はロムルスの言葉にすべて納得する。
フラウロスは過去、現在、未来すべての質問に答えることができる悪魔。そしてローマは、過去であり現在であり未来だ。その文明は欧州に引き継がれ、今もなお、ローマで育まれた文化が欧州に根付いている。
ローマは永遠であり、すべての道はローマに通ずるのだ。
思えば、自然科学と修辞学を司るナベリウスを、人権を生み人文学に秀でたフランスの英霊が相手取ったのも自然なことだった。
さらにそこに、突如として眩い光の槍が降り注ぎ、隕石のように魔神柱たちに直撃した。大半の魔神柱がその一撃で消失し、生き残った者もほとんど眼球を潰されている。
とてつもない威力のそれによって衝撃波が吹きすさび、唯斗はアーサーに支えられてやっと立っていられた。
「な、んだ、この威力…!」
「これは…」
アーサーが驚いている。その目線を辿ると、遠く離れた岩山に立っている一人の少女と女神の姿があった。女神はステンノだ。隣にいるのは、恐らくアルテラだろう。
今のは彼女の宝具による爆撃だったらしい。
「何あれ、すっごい宝具!確か前の時はあんなの見なかったよねぇ!?」
記憶が曖昧なネロと違い、第二特異点の記憶がはっきりしているブーディカは驚く。
偽ローマでロムルスやレフと戦い、アーサーのエクスカリバーで吹き飛ばしてから、アルテラがローマを目指してスペインの平野を侵攻したときだ。残されたブーディカやネロとともに戦ったわけだが、ブーディカの言うとおり、あのときはここまでの威力ではなかった。
カエサルはその豊満な巨体からは想像できない身軽さでロムルスのところまで来ると、アルテラの姿を見て感情の読めない顔をする。
「…神祖。あれはマルスの剣だな」
「うむ。間違いなく」
ロムルスが言うところによると、あの剣は、正真正銘マルスの剣であるらしい。軍神マルス、古代ローマの最高神クラスである。
その正体とは、衛星軌道上に仮想顕現した宝具であり、太古の戦闘の概念そのものでもあるという。
「…衛星軌道上に軍神マルスの剣…?マルスはもともとギリシア神話のアレスに等しい、なのになんで宇宙スケールの話に…」
「…マスター、今はとりあえず魔神柱に集中しよう」
アーサーはどうやら事態を理解しているらしい。正直いろいろな意味で気になったが、アーサーがそう言うのなら唯斗は応じるほかない。
それに、言葉通り、今は確かにそれどころではない。
ネロもロムルスの説明によく分からなさそうにしながら、剣を魔神柱に向ける。
「よく分からぬが、軍神が味方ならば心強い!であれば我らローマの勝利は必定!貴様らは先へ行くがいい、立香、唯斗!
世界は決して終わらぬ。すべての道は、我らが七丘へと続くのだから!その歩み、やがて明日の世界を開くであろう!」
「ローマ!任せたよネロ!」
「未来は俺たちに任せてくれ」
「うむ!」
ネロに背中を押され、立香とともに唯斗も走り出す。アルテラの攻撃から復活しつつある魔神柱たちの間を抜けて、石門をくぐる。
人理という街道を紡いだローマの英霊たちに後を任せ、第二の拠点を後にした。