終局特異点: 冠位時間神殿ソロモン−8


第五の拠点、それはハルファスの統べる場所だった。序列38位、要塞や軍勢、武器を司る悪魔である。

そこですでに戦闘を開始していたのは、やはり思っていた通りの英霊たちだった。

第五特異点、北米にて神話大戦を繰り広げていた者たちが、戦争を司る魔神柱たちと戦っている。

石門を通り抜けてやってきたこちらを見て、ナイチンゲールは微笑んで振り返る。


「道は開いておきました。ああそれと、また会えて光栄です、マスター、そしてミスター雨宮」

「あぁ、余も再会できて嬉しいぞ」

「ナイチンゲール、ラーマも!」


隣に着地したのはラーマだ。二人だけでなく、エジソンとブラヴァツキー、李書文、スカサハも魔神柱たちと戦っているのが見える。
戦闘に特化した魔神柱はかなり火力が高いはずだが、集まっている英霊たちも格が違う。

ナイチンゲールとラーマは再び魔神柱たちが復活していくのを睨み付ける。


「マスター、痛みを恐れないでください。けれど、傷つくことは恐れなさい。不老が眩く見えるのは当然のこと。それでも前に進まなければならないのです。死を恐れ怯える精神は、決して卑賤なものではありません!」

「その通り、失うことを恐れるからこそ、我らは誰かを愛し、慈しみ、大切にしようと思えるのだ!」


ナイチンゲールは死を正しく恐れたからこそ、正しくこれを避けるべく努力を重ねた。そうして近代看護学を大成させ、人類の命を延命させてみせた。
ラーマも、シータを失うことを恐れていたからこそ、羅刹との戦いに身を投じ、広大なインド亜大陸を駆けて戦い続けたのだ。

すると、あの特異点で味方だった者だけではなく、敵だった者たちも続けざまに現れて攻撃を開始した。
メイヴ、クー・フーリン・オルタ、フェルグスの姿も見える。

さらに、唯斗たちのすぐそばに降り立った二人の美丈夫の姿。


「いやはや、野蛮さに寄った者が多いことだ。それを長所と見るべきか短所と見るべきか…いや、長所なのだろうな。野蛮さと優雅さの調和は難しい」


現れたのはフィン・マックールとディルムッドだ。二人ともカルデアの記憶はなく、特異点の二人として存在している。


「おっと、そういえばここに野蛮と優雅を併せ持った男がいたじゃあないか!」

「我が君!!今回だけは自重されよ!!!」


相変わらずのフィンに対して、ディルムッドはさすがにそんな場合ではないと判断したのか窘める。相変わらず声がでかい。
ディルムッドはこちらに気づくと、驚いたようにしてから近づいてきた。

思えば、このディルムッドとは最初に戦ったきりで、二人を倒したのは立香たちだった。


「また会ったな、カルデアでの俺のマスター殿。再戦は敵わなかったが…とはいえ、これこそ本来あるべき姿だろう」


あのとき、ディルムッドは唯斗を殺そうとして、カルデアのディルムッドの深層心理にアクセスしていたことから唯斗を守ろうとする意志の干渉を受けていた。
次は必ず殺すと言っていたが、結局それは敵わずに終わった。ただ、それでいいとディルムッドは言っている。


「あなたを守ろうという、この霊基(こころ)の在り方のままに戦えるのだから。さぁ、先に行かれよ」

「…あぁ、ありがとな、ディルムッド」


ディルムッドは微笑んで頷くと、フィンとともに魔神柱たちのところへと走り出した。
さらに、唯斗の背後から二人のサーヴァントがすっと現れた。その気配に振り返ると、そこにはジェロニモとビリーの姿があった。


「久しいな、唯斗殿」

「やっほー」

「ジェロニモ、ビリー…、あのときはありがとう。また会えて良かった」

「私もだ。この一瞬だけではあるが、次はきちんと言葉を託せるのだから」


ワシントンでの暗殺作戦の折、唯斗はメイヴ、オルタ、アルジュナの3騎に敵わず敗走し、ジェロニモたちとはまともに挨拶もできなかった。
あのときの悔しさをバネに努力を重ねてきた唯斗だったが、こうしてまた会えて純粋に嬉しかった。
ジェロニモはナイフをくるくると回して構えると、優しい笑みで唯斗を見遣る。


「我ら先住民にも理解と敬意を示してくれたあなたに感謝を。そして我らが記憶、無念、誰もが敬われる平和な世界を開く希望を、あなたに託そう」

「…あぁ、任された。ここは頼んだ」

「承知した。それではさらばだ、唯斗殿」

「ここは任せてね」


ジェロニモとビリーはそう言うと、魔神柱たちに向かっていった。

そこに、着替え済みのエリザベートが放った衝撃波によって砕けた岩の破片が唯斗に向かって飛んできた。咄嗟に避けようとしたが、唯斗に当たる前にその破片は途中で何かにぶつかって地面に落ちる。
まるで見えない何かにはたき落とされたような様子に、唯斗はまさか、と声をかける。


「…ロビン?」

「……あー、ま、今のはバレますよねぇ」


現れたのはロビンフッドだった。顔のない王を解いて姿を現したロビンフッドは気まずそうで、そういえば、北米での別れ際に額にキスされたのを思い出す。
アーサーも同様だったようで、唯斗の肩を抱きながらにっこりとした。


「マスターが『とても』お世話になったね、ロビンフッド殿」

「騎士王のする顔じゃねぇですよ、それ。まったく、こっそり戦うつもりだったんですがねぇ」

「…俺は、特異点のロビンとまた会えて嬉しいけどな」

「そういうとこっすよ」


ロビンフッドは唯斗の言葉にため息をつきつつ、仕方ないと笑って唯斗の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。


「一踏ん張りしましょうかね。あんたらなら大丈夫だ」


ロビンフッドは珍しくそんな励ます言葉を言うと、前方で射撃を続けるビリーのところへと向かっていった。
二人が魔神柱に向けて銃と矢を撃とうとしたところへ、今度はとてつもないエネルギーの爆発が魔神柱を薙ぎ倒した。

この豪快な爆発は、と思って見上げれば、案の定、カルナとアルジュナが競うように魔神柱たちを攻撃しているのが見えた。

これで走り抜けられる。


「行こう、唯斗!」


立香に促され、唯斗も走り出す。その直前、唯斗はナイチンゲールの方を向いた。


「ナイチンゲール、あのときはきちんと別れられなかったけど。一緒に戦ってくれてありがとう」

「こちらこそ。どうか握手を。患者の退院のときに握手をするのが楽しみだったのです」

「…あぁ、この病は俺たちが必ず治す」

「ええ、お任せします」


にっこりと微笑んだナイチンゲールと握手をしてから、唯斗はアーサーとともに走り出す。残る拠点はあと二つだ。


437/460
prev next
back
表紙へ戻る