終局特異点: 冠位時間神殿ソロモン−9
別れをきちんとできなかった第五特異点の英霊たちと言葉を交わし、岩の合間を進んで次の石門を抜ける。
そこは、序列7位の悪魔アモンの管轄だった。アモンはエジプト神話のアメンと同一視されることもあり、人間同士の不和と和解の両方を司る。
ここはまだ戦いが始まっていなかったようだが、カルデアが到着するのと同時に立ち上がった魔神柱に対して、三蔵と藤太、ハサンたちが現れる。
5人はカルデアにもいるが、あの特異点では戦いの中で後を任せるしかできなかった者たちだ。
立香も感慨深いものがあるのか、彼らと肩を並べられて嬉しそうにしている。
そこに、堂々とした声が響いた。
「まったくなんだここは!害獣駆除がまったくなっていないではないか!」
オジマンディアス、そして恐縮しているニトクリスである。どうやらニトクリスの説得でオジマンディアスも来てくれたらしい。
「オジマンディアスも来てくれたのか」
「唯斗か。フン、ただの観光故、貴様らに力は貸す道理はなし」
「で、ですがファラオ、彼は我々を…」
「何を言うニトクリス。そも、メソポタミアの地で相応の働きをしてやったであろう」
オジマンディアスは完全に記憶を共有しているようで、ニトクリスも漠然とは記憶が同期しているようだ。
オジマンディアスは戦うつもりはないらしいが、代わりに、別の英霊たちが現れる。
敵だった円卓の騎士、ガウェイン、トリスタン、ランスロットだ。
ガウェインは現界するなり唯斗に気づくと、すぐこちらにやってくる。
「キャメロットぶりですね、ミスター・唯斗、そして異世界の我が王よ。此度こそ、我が罪を雪ぐには至りませんでしょうが、あなた方のために戦いましょう」
「カルデアのガウェインも戦ってくれてる。ぶっちゃけちょっとトラウマだったけど…今は、特異点のガウェインのことも信じる。あのときのあなたの在り方を否定はしない」
「…そうですか。なおさら、この剣を振るうも道理というもの。ガウェイン、推参します」
ガウェインは唯斗の言葉に微笑むと、アーサーに礼をしてから、魔神柱に斬り掛かった。
すでに3人のハサンと三蔵、藤太も戦闘を開始しており、トリスタンとランスロットも攻撃に加わった。
しかしそれを見て、オジマンディアスは嫌そうに顔を歪める。
「…円卓どもも集まってきたか。余は帰る。後は任せたぞ、ニトクリス。ハサンどもならまだしも、円卓、しかも聖剣使いまでいるとあっては余が共に戦うなど!」
「おっと、遅れちまったかこりゃあ?随分と頼もしいのが集まっているが…いないよりマシだろう?唯斗」
「っ、アーラシュ…!!」
そこに現れたアーラシュ。
このアーラシュは、あの東の村にて、獅子王の裁きを受け止めるためにステラを放ったとき以来となる。
アーサーのいない不安に寄り添い、村を守るために瀕死の重体のまま宝具を解放し、そして、最後に残された時間を唯斗に礼を言うためだけに使って消えていった、大英雄の姿が脳裏に浮かぶ。
知らず、体が勝手に動いていた。思わず走り出した唯斗を、アーラシュは笑って受け止めて、抱き締めた。
防具越しに肩に顔を埋めると、アーラシュは優しく、しかし強く唯斗を抱き締める。
「…あンときはありがとうな、マスター。また会えて嬉しいぜ」
「お、れも…ありがとな、アーラシュ、東方の大英雄。あんたがいたから、今がある」
唯斗の頭を撫でてから、アーラシュは体を離して人好きのする笑みを浮かべる。
「共に戦うと言って令呪まで送ってくれたあんたに、最高の一撃で民を救って報いることができた。あの一撃を経て、そして今こうして再会できたこと、そっちの俺に自慢してやりてぇな」
「また会えて、良かった。来てくれてありがとう」
「何をしている唯斗!迅速に余を前線にかり出さぬか!そこな弓兵も特に許す!このオジマンディアスと肩を並べて戦う栄誉を与える!」
不覚にも涙ぐみそうになっていた唯斗だったが、割り込んできたオジマンディアスのでかい声での変わり身を見て、すべて引っ込む。相変わらずアーラシュのファンのような言動をする男だ。
そうしてしばらく戦闘に加わった唯斗たちだったが、この魔神柱は極めて回復力が高いらしく、突然、今までにないほどの多さで増殖した。
個体を増殖させることで押しとどめるつもりらしい。これでは道が開けない。
「くそ、らちが明かねぇな、こりゃ宝具を解放するしかねぇか?」
アーラシュがそんな唯斗の胸を抉るようなことを言い出し、オジマンディアスですら「勇者よ、それはさすがに残酷すぎるぞ」と引いていると、この場の誰でもない声が落ちてきた。
「その必要はない。縁は光芒に散り、因果は立ち消えた。されど我が槍は、貴殿らの戦いを忘却することはない。最後の一押しを任されよう。我が名は嵐の王、ロンゴミニアドを預かる者。最果てより星の錨を打ちに来た。供をせよ、スミレ色の銀騎士よ」
「は、
剣を摂れ、白銀の腕」
獅子の仮面をして馬に乗る女性と、その横に佇む青年。遠く離れた場所にいながらその声が聞こえてきた直後、ロンゴミニアドの光が無数の魔神柱を一気に焼き払った。
燃え尽きた魔神柱の向こうに道が開かれる。
その姿をもう一度見ようと視線を戻したときには、もうその二人の姿は見えなくなっていた。
一瞬だけ、彼らは手を貸してくれたらしい。
「…行こう、立香。オジマンディアス、アーラシュ。ここは任せた」
「無論、任せるがいい」
「気張ってこい、マスター!」
唯斗が立香を促し、魔神柱たちが消えたあとへと向かう。オジマンディアスとアーラシュに見送られ、円卓の騎士やハサンたちにも手を振られ、三蔵と藤太に励まされながら、この拠点を後にする。
人の不和と和解を司る魔神柱アモン。聖地をめぐり何度も戦争してきた人類だが、少なくとも今この場は、ともに人類のためにすべてを乗り越えて力を合わせて英霊たちが戦っていた。