終局特異点: 冠位時間神殿ソロモン−12
光に包まれたあと、地面に着地する。レイシフトにも似た感覚が過ぎ、目を開くと、この特異点で最も広いであろう空間が広がっていた。
白い稲穂のような草原の向こうには、同じく白い壮麗な階段と玉座。巨大な石柱が広場を取り囲んでおり、この広場の周囲には巨石が浮かんでいる。
巨石の向こうには、これまで散々見てきた光帯が禍々しく見えていた。
「英霊どもも思いのほかやるじゃあないか。ここまで敗戦を重ねるとは、予想外だ」
そんな低い声とともに、玉座から人が立ち上がった。あれが魔術王ソロモン。
毒々しい赤いエネルギーを背後に漲らせ、ブロンドの髪を結んで左に卸している。
立香は「ソロモン…!」と男を睨み付ける。立香とマシュは、第四特異点で魔術王と邂逅していた。
「そうだとも。2度目だな、カルデアのマスター。隣の貴様は、もう一人のマスターと異世界の騎士王とやらだな。遠方からの客人をもてなすのは王の喜びだが、あいにく私は人間嫌いでね。君たちの長旅に報いる褒美も温情もない。あるのは『なぜ』という憤りだけだよ。なぜ、あとたった数分間を自重できなかった?我らが作り上げた仮想第一宝具、『
光帯収束環』、この起動計算が終了するまで、なぜ待たなかったのだ」
「アルス・ノヴァ…?」
魔術王との距離は、白い草原の分だけ空いているにも関わらず、互いの声がきちんと聞こえ、まるで近くで会話しているかのようだった。
魔術王の声がそれだけこちらに響き、こちらの声を向こうが聞いているためだろう。
聞き慣れないのか訝しむ立香に、唯斗は簡単に説明する。
「一般的にも、ソロモンは魔術の父のように扱われるけど、特に原始キリストの回帰が起こったルネサンス運動において、偽ソロモン文書群というソロモンの名を冠した無数の魔道書が編纂された。いわば、ソロモンっていう一つの創作ジャンルだ。それは後にグリモワールという一つの学問に体系化される。その中で最も有名なのが、『ソロモンの鍵』と『レメゲトン』、あるいはそれぞれ『ソロモンの大きな鍵』と『ソロモンの小さな鍵』っていう二つの書だ。後者の『ソロモンの小さな鍵』は5部構成で、第1部がゴエティア、第2部がテウルギア・ゴエティア、第3部がアルス・パウリナ、第4部がアルス・アルマデル・サロモニス、そして第5部がアルス・ノヴァだ」
「そうだ。私のもつ3つの宝具のうち、この仮想第一は数分後の熟成を待つのみだが、第二宝具はこの空間そのもの。『
戴冠の時きたれり、其はすべてを始めるもの』、すなわち我が固有結界、時間神殿ソロモン」
第一宝具である光帯は、魔道書である「ソロモンの小さき鍵」における第5部の名を冠する。アルス・ノヴァはソロモンが神殿の祭殿で行っていた祈祷の書であり、「新しき術」を意味する。
第二宝具は第3部のアルス・パウリナから名を取っており、星の時間ひとつひとつに宿る精霊に関して記述したものだ。「パウロの術」を意味している。
そしてこの光帯は、アトラス院でのホームズの予想通り、3000年におよぶ地球の生命活動すべてのエネルギーを収束させた超エネルギー体だった。それはつまり、人類を滅ぼす炎ではなく、単に人類を燃料とした炎でしかないということだ。
マシュは淡々と魔術王に尋ねる。
「なぜこのようなことを?」
「無論、私が至高の座に辿り着くためだよ。我々はお前たちになど期待していない。誰も為し得ないなら私が行う。誰も死を克服できないのなら私が克服する。その傍らで、貴様らは無様に死に絶えるがいい!さあ、会話は終わりだ。胸躍る殺戮の幕を開けよう!!」
「…マシュ、立香。俺たち人類だって、あんなのに期待なんてしてないと見せてやろう」
「あぁ!」
会話など不要だ。
嘆くなら勝手に嘆けばいい。だがそれを押しつけられるのは迷惑だ。完全な存在ほど不完全な存在などいないのだから。