終局特異点: 冠位時間神殿ソロモン−14


再顕現したビーストI、ゲーティアは、第三宝具の展開を開始した。ビーストとしての最後の姿を見せることで、消え去る人類への手向けとでもするつもりらしい。
3000年分の熱量が満ちる光帯から、直接熱戦をこちらに照射するのだ。

唯斗は立香のそばにいるアストルフォに声をかける。


「アストルフォ、立香を連れて別空間に移動できるか」

「無理だね。世界の裏側に行けるのはいっときだけ。それも、きちんとした時空での話だ。ここは空間そのものがゲーティアの宝具なんだろう?あれから逃げることはできない」

「マスター、俺の戦車なら攻撃を避けることはできるが…いや、攻撃範囲が広いな。逃げ切れるかは微妙だ」


アストルフォ、アキレウスをもってしても、逃げる・避けるという選択肢はとれない。
マシュは二人の答えを聞いて、盾を構えた。


「…あれは、止められません。マスター」

「つまらん。なぜ受け入れる、マシュ・キリエライト」


するとゲーティアはマシュにそんなことを尋ねた。

ゲーティア曰く、ゲーティアの中には、最後に人間からの同意を得たいという願望があるらしい。人類最後の命を悲劇にしたくないという願いだ。
なぜなら彼ら、つまり魔神柱という名のソロモンの最初の使い魔でありその召喚式の受肉体は、人を憎んでいるのではない。

ただ、永遠の命を前提とする惑星を再構築することで、あらゆる命を永遠とし、有限によって生じる苦しみから解放することが目的なのだという。


「一言、よし、と言え。その同意を以て、共に極点に旅立つ権利をやろう」


そしてゲーティアは、人に作られ、その限りが人より短い理不尽を生きるマシュに対して、その同意を求めた。
マシュは目を伏せる。


「…確かに、死が約束されている以上、生存は無意味です。私は、あなたの主張を否定することはできません」


しかし、マシュは盾を構えたまま、ゲーティアを毅然と見上げた。


「でも、人生は、生きているうちに価値の出るものではないのです。死のない世界、終わりのない世界には悲しみもないのでしょう。でも、それは違うのです。永遠なんていらない、私が見ている世界は、今、ここにあるのです。私は、一秒でも長く、この未来が見たい」

「マシュ…ッ!」


立香は、死を覚悟しながらそう言ったマシュに目を見張った。
まさか、あの光線を受け止めるつもりだろうか。そんなのは無茶だ。唯斗は咄嗟に止めようとしたが、アーサーに止められる。

唯斗の肩を掴むアーサーの手は強く、痛みすら走るほどだった。振り返ると、唇を引き結んだアーサーの姿。


「アー、サー…」

「…彼女の覚悟を、君たちこそが受け止めなければいけない」

「でも、」


一方、マシュは盾を構えて態勢を低くする。そして、立香を振り返った。


「先輩、もう一度、手を握ってくれますか」

「……うん、もちろん」

「残念だ。では、この時代と共に燃え尽きよ」


ゲーティアは第三宝具を展開する。光帯が輝き、赤黒いエネルギーが一つにまとまっていく。
盾を地面に突き立てたマシュはそれをしっかりと構えて宝具を解放した。

途端に浮かび上がる白亜の城。心に穢れがなければ、何者にも破られない正門だ。


「…あぁ、この門なら、破られることはないだろう。大丈夫、次は私が任されよう。円卓最高の騎士よ」


アーサーがそう呟いた瞬間、光線が放たれた。
アキレウスとアストルフォはいったんカルデアに戻り、マシュの盾の後ろに立香、唯斗、アーサーが控える。

直後、周囲は一瞬にして莫大な熱と光に包まれた。
聴覚は完全に意味を成さなくなり、爆音と轟音が鼓膜を破らんとばかりに揺らす。地面は揺れて、目を開けていられず、アーサーに支えられている感覚だけがあった。

人類史そのものが、今、熱となってマシュを焼いているのだ。

こんな残酷な結末が、こんな救いのない終わりがあっていいものか。たとえ先のない命だったとしても、もっと優しい終わり方が、優しい彼女に相応しかったはずなのに。


443/460
prev next
back
表紙へ戻る