終局特異点: 冠位時間神殿ソロモン−17
こうして、ロマニによって魔術王は死んだ。残るのは、ただの獣、ビーストI・ゲーティア。
それは、力で倒せる災厄の獣である。
「…アーサー、」
「ああ。やろう、マスター」
唯斗は一言アーサーを呼ぶ。
目元を拭った立香の肩を唯斗は叩いた。
「あとは俺たちの番だ、立香」
「っ、うん、そうだね、」
ぐっとすべてを飲み込んで立香は前を向いた。立香らしい意志の強い目に唯斗は頷くと、右手をかざす。
唯斗の前に立つアーサーは、ゲーティアに対峙してエクスカリバーの切っ先を向けている。その背中に向けた右手の令呪に魔力を籠めた。
「騎士王アーサー・ペンドラゴン、令呪三画を以て命じる」
令呪三画が一気に輝いて、真っ赤な光が礼装を照らす。そのまま、右手を高々と掲げた。
「人類に勝利を!!」
「承知した!
十三拘束解放、
円卓議決開始!」
『承認。ベディヴィエール、ガレス、ランスロット、モードレッド、ギャラハッド』
「…これは、世界を救う戦いである」
『―――アーサー』
一気に魔力が持って行かれ、思わず唯斗は膝をつきそうになったが、隣に立った立香が支えてくれた。くらりとする視界の中で、それでもしっかりと、アーサーの背中を見つめた。
聖剣は光り輝き、猛烈なエネルギーを纏う。
13の拘束が外れて、すべての力を解放した聖剣は、唯斗の魔力の大半を得て、かつてないほどに輝いた。エネルギーが収束していく剣を、アーサーは下から上に振りかぶる。
「
約束された勝利の剣!!!!」
その光は光線となって収束して、エクスカリバーから放たれた。
燃え尽きた地面を蒸発させ、浮かぶ岩石をかき消し、衝撃波ですべての円柱をへし折り、広場の土台そのものを崩壊させていく。
亀裂が入った地面が崩れてバラバラになっていき、光線はゲーティアを包むように直撃した。
轟音が特異点全域に響いた直後、ゲーティアの悲鳴と唸り声が空を貫く。
それを合図にして、一斉に魔神柱たちが活動を停止し始めた。もとからロマニによって結合が綻んでいたところに、英霊たちが畳みかけ、ゲーティアはもはや総体を維持できないのだ。
魔力の供給もとまり、崩壊する空間の中で、そのエネルギーは急速に萎んでいった。
アーサーは唯斗のところまで下がる。さすがに全力のエクスカリバーの解放だったためか、腕からは血が流れ、口の端からも血が滲んでいた。それでも霊基を保っているのは、それが騎士王たるゆえんだ。
唯斗を立香から預かり支えようとしたアーサーだったが、二人で揃って地面に膝をついてしまった。
だがこれで、もはやゲーティアは崩壊を待つのみとなっている。それでも、立香は、ゲーティアに向かって歩き始めた。
「あとは俺がとどめを刺すよ」
「……分かった」
唯斗は止めなかった。立香は直接ゲーティアを殴るらしく、思い切り拳をゲーティアに振り上げたが、結果に弾かれる。もう一発殴りかかり、また結界で弾かれてもなお、拳をゲーティアに叩き込んだ。
何度も何度も、結界によって拳には血が滲んでいるだろうに、それでも、直接殴ろうとゲーティアに迫る。
ついにゲーティアは叫ぶように尋ねた。
「なぜだ…!なぜ、ここまで戦えた…!!」
「決まってる!」
そう言うと、立香も右手の拳に令呪を籠めた。先ほどマシュに使った1回、そして、二画目のエネルギーを籠めてゲーティアに殴りかかる。
「生きるためだ!!」
結界をぶち破り、その拳はついに、ゲーティアを直接殴った。
よろめいたゲーティアは愕然とする。
「生きる、ため…そうか、人理を守ってさえ、いなかったとは…なんという…なんという、救いようのない愚かさだ。救う必要ない、頑なさだろう…は、はは、ははははは!!」
力の抜けたようにゲーティアは笑う。
あぁ、確かに簡単なことだった。永遠だとか、生命の意味だとか、そんなことはどうでもいいのだ。
「……死にたくないから生きてるんじゃない。生きたいから、生きてるんだ」
「マスター…」
すぐそばで唯斗の背中に腕を回して共にかろうじて立ち上がったアーサーは、思わず呟いた唯斗の言葉に驚いたようにしたあと、「その通りだ、その通りだよ」と同じように呟いた。