終局特異点: 冠位時間神殿ソロモン−18
その後すぐにゲーティアの霊基は消滅し、特異点は崩壊を始めた。
慌てて離脱を開始した立香と唯斗、アーサーだったが、唯斗は走れないためアーサーに抱えられている。さすがに、令呪全画を使ってのエクスカリバーの解放となったため、体に力が入らない。
そうして最初の門へと辿り着いたが、そこに、ダ・ヴィンチから緊急の通信が入る。その報告を受けるまでもなく、唯斗たちの前には泰然と立つ姿があった。
それは七十二柱の魔神の残滓、もはやゲーティアとは言えない思念体のようなもの。
最後に有限の存在となったことで、ゲーティアは意地が、願いができた。
合理的でない、最後の戦いを求めたのだ。
輝く黄金の長い髪、崩れて赤黒く染まった体、うつろだが最も意志がある瞳。
「…最後の戦いを始めよう」
「……そうだね」
立香はあくまでそれを受け止めるつもりらしい。アーサーに抱きかかえられた唯斗も、その腕から降りる。
「…この僅かな、されど、あまりにも愛おしい時間が、ゲーティアと名乗ったものに与えられた本当の人生だ」
「立香、」
「大丈夫。ちゃんと、向き合うよ」
立香はそう言うと、再び拳を握る。それならば、唯斗も応じたかった。
「…アーサーは待っててくれ。多分、本当に動けなくなるから」
「……分かった」
アーサーも唯斗に託してくれた。これが、正真正銘、最後の戦いだ。
唯斗は立香の隣に並び立ち、ゲーティアと向き合う。魔術回路は痛みを発しているが、それでもまだ戦える。マーリンによって魔術回路を増強されたからだろう、最後の一撃くらいなら放てるはずだ。
「俺が道を作る。かましてやれ」
「任せて、唯斗」
唯斗は頷くと、左手をゲーティアに向かってかざした。同時に立香が走り出す。
ゲーティアも周囲の岩を浮かせると、こちらに向けて勢いよく射出した。
先にこちらに到達した岩を、アーサーが剣によって叩き切る。それくらいはしてもらわないと危なかった。
あくまで守りに徹してくれるアーサーに任せて、唯斗は最後の力を振り絞る。
「
天よ、地よ、真実を見よ」
詠唱を終えた瞬間、魔力で編まれたメンヒルが出現した。
かつて、フランスで孤独な日々を過ごす中で、唯一のよりどころのように、ただ一人見つめていた巨石だ。
地面から現れ空から降り注ぐメンヒルがゲーティアを直撃して、ゲーティアを吹き飛ばして岩壁に叩き付けた。
そこに、立香が拳を握りしめて振りかざす。
「ゲーティアッ!!!」
そう叫ぶと同時に、令呪の魔力が籠められた拳がゲーティアの腹に入り、ゲーティアは血を吐いて膝を着いた。
立香も三画を消費したため、魔力欠乏によってよろめく。
ゲーティアはぐったりと壁に寄りかかったが、その表情は緩んでいた。
「…不自然なほど短く、不思議なほど面白いな、人の人生というやつは」
最後にそう呟いて、ゲーティアは光の粒子となって消失した。これで完全に、ゲーティアは消滅したのである。
ぐらりと、体が揺れる。地面ごと数メートル落下したのだ。
「っ、マスター!行くよ!藤丸君も走るんだ!!」
かつてないほど焦ったアーサーは、唯斗を抱えて走り出す。立香も後ろからついてきて、もうすっかり細くなった岩の道を駆ける。
その先には、レイシフトするための光の筋が見えていた。アーサーの腕に抱かれて、肩越しに走る立香を振り返る。
「頑張れ立香!あと少しだ!!」
「ッ、うん、!」
『レイシフト地点まで早く!こちらもギリギリまで待機する!!』
通信からも切羽詰まったダ・ヴィンチの声がした。
一足早くレイシフト地点に到達したアーサーと唯斗だったが、直後、地面が崩れた。立香が地面ごと落下する。
「ッ、立香!!」
唯斗は地面に降りて手を伸ばした。何も考えてなどいない。ただ、立香に手を伸ばす。
すると、隣に見慣れた姿も突如として現れた。
「先輩ッ!!」
なぜ、とは思わなかった。
当然だ、当然なのだ。彼女はそれだけのことを成し遂げた。
マシュとともに立香の手を掴んだ瞬間、体から五感が消えた。重力から解放され、体は引っ張られていく。
―――すべてが、終わろうとしていた。