藍色の愛−1


無重力状態の体に一気に重力が戻ってくる感覚とともに、意識が覚醒した。
コフィンの扉が開き、自分の足で踏み出そうとした瞬間、力がうまく入らず体がよろめく。しかしすぐに体は抱き留められた。


「おかえり、マスター」

「…アーサー、」


すっかり元気そうなアーサーが唯斗を受け止めてくれていて、魔力が欠乏して力が入らない唯斗は、アーサーの腕に支えられながら隣のコフィンを見る。

ほぼ同じタイミングで立香も目覚めたようで、コフィンが開く空気音が聞こえる。


「先輩!!」

「マシュ!?」


扉が開くとともに、立香にマシュが飛びついた。これほどのマシュから立香への感情表現は初めてだ。
それも当然だろう、なぜならマシュは、最後の別れになると思った。立香も唯斗も、それを覚悟してゲーティアに臨んだのだ。
アーサーすらもマシュが元気そうにしていること、そしてフォウを見て目を見開いていた。


「はい、おはようございます、マスター!マシュ・キリエライト、生還しています!」

「何があったの!?」

「それが…私にもよく分からなくて。気がついたらレイシフトの座標に立っていました。何か、とても温かな言葉に送られた気がしたのですが、思い出せなくて…フォウさんの声で目が覚めて、すぐ隣に唯斗さんがいて、そして走る先輩の姿がありました」

「そうだ、唯斗は?」


立香はマシュを軽く腕の中に抱き込むようにしながらコフィンから出ると、隣の唯斗を見てほっとする。
立香も魔力欠乏のはずなのにマシュと立っているのに対して、唯斗はアーサーに凭れているあたり、最後にものを言うのは筋肉か、とレオニダスのようなことを思ってしまった。

そこに、軽快な声がかけられる。


「はいそこ、そろそろ離れようね〜、スタッフさんの手前もあるからね〜」

「ダ・ヴィンチちゃん!」

「す、すみません、」


マシュはさっと離れ、立香は気にせずダ・ヴィンチに表情を緩める。
唯斗も離れた方がいいかと思ったが、アーサーがしっかりと唯斗を抱き締めて離さなかった。
ダ・ヴィンチも唯斗が立てないと分かっているのか、指摘することはなかった。


「筋肉疲労、魔術回路の消耗、細かな外傷は山ほどあるが、君は無事、このカルデアに帰還した。であればこう言わないとね」


ダ・ヴィンチはにっこりと笑うと、4人に向けて両手を広げる。


「任務達成おめでとう、マスター・立香、唯斗。最終グランドオーダー、全行程を終了とする!」


そしてそう言った瞬間、扉がスライドしてスタッフたちがカルデアスのある空間に入ってきた。手に持ったクラッカーを弾けさせ、紙吹雪が舞う。
スタッフ総出で拍手をしながら口々に祝福の声を上げている。


「えっ!?」

「これは…!」

「っ、」


驚く立香とマシュ、唯斗に、ダ・ヴィンチはサプライズが成功したときにいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「20人に満たないスタッフだ、万雷の喝采とはいかない。だから見てくれだけでもってね」

「ッ、嬉しいです、ありがとうございます…!」


立香は涙ぐみ声を詰まらせる。マシュも嬉しそうに微笑んで礼を言う。


「ありがとうございます、皆さん。皆さんのおかげで私たちは帰ってこられました。この勝利は、カルデアの全員でつかみ取った勝利です」


唯斗はアーサーに支えられながらも、なんとか自分の足で立ってスタッフたちに向き合う。あまり会話したことはなかったが、彼らは1年半にわたって、極限状態の中で綱渡りのようなグランドオーダーを支えてきてくれた。


「…マシュの言うとおりだ。人類史上、最も少ない人数で世界を救ったと言ってもいいかもしれない。あなたたちにしか、できなかったことだ。ありがとう」

「私からも礼を言おう、カルデアの人々よ。あなたたちは間違いなく、偉大なことを成し遂げた」


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