藍色の愛−2
唯斗に続けて、騎士王たるアーサーもスタッフたちに賞賛を贈る。他ならぬアーサー・ペンドラゴンからの言葉に、スタッフたちも涙ぐんでいた。
ダ・ヴィンチはそれに表情を緩めてから、またこちらに向き直る。
「その通り。そしてカルデアも無事、通常空間に帰還できた。施設の6割が破壊されてしまったが、それはどうとでもなる。どうにもならないのは、最初の爆発で失われた200名の命、凍結保存中のマスター候補47名、それと、終局特異点からの未帰還者1名」
分かっていたことだったが、立香とマシュの表情が沈む。ロマニの消失が与えた衝撃は大きく、特にこの二人は、孤独なカルデアでの戦いにおいて、ロマニが親兄弟のように接していた。
そんな二人に、ダ・ヴィンチは咳払いをする。
「私ともあろう者が、ちょっとチョイスを間違えた。暗い話は後でいい。冷凍保存中のマスターたちは、外からの増員が来れば蘇生できる。施設だってね。大事なのはこれからのことだ」
「これからのこと…?」
「そうだ…外はどうなってるんだ、時空はどうやって復元した?」
終わった戦いにばかり目を向けていたが、今、人理は完全に修復されたのだ。どのように時代が戻ってきたのか、失われた2015年7月30日から2017年1月21日がどのように歴史で処理されたのか。
ダ・ヴィンチは唯斗の問いに楽しげに答える。
「先ほど外部との通信が再開された。外ではもう、しっちゃかめっちゃかだぜ?なにしろこの一年間の記憶がさっぱりなんだから!」
どうやら、グランドオーダー期間中に失われた時間はなかったことにはならず、律儀に世界は元の時間へと復帰。
人類は気がついたら2016年から2017年にワープしていたかのような状態だった。
しかし人類だけでなく、あらゆる生命、地球そのものすら、「経年」していない。物理的にはワープに等しく、生命活動は人理焼却から人理復帰の間に隙間はないことになる。
それでもこの間に知性活動が一切存在しなかったことは魔術協会も確認するところとなり、明日にもカルデアに大規模な使節団が派遣されることになったそうだ。
「ってことは、サーヴァントのみんなは…」
立香はそれを聞いて、カルデアに残っていたサーヴァントたちのことに思い至る。ダ・ヴィンチは苦笑しながら肩を竦めた。
「軒並み退去してしまったよ。人理が修復された今、カルデアに残る意味はないからね。こっちに残っているのは私のようにグランドオーダー前からいた者か、君たちが心配で放っておけないという奇特なサーヴァントだけとなってしまった。無論、霊基パターンは保管しているから、レイシフトが必要になったらまたすぐ契約できるよ」
「そっか、すぐお別れってわけじゃないんだね」
ほっとしたようにする立香だったが、レイシフト自体は本来、気軽に行えるものではない。国連の許可が必要なものである。
そもそも、レイシフトが必要な事態そのものが想定できなかった。
一通り状況が理解できたところで、ダ・ヴィンチはパンと一つ手を叩く。
「さて、カルデアの状況はこんなところだ。それよりも重要なことがある。立香君、マシュ、君たちはこの座標までこの装置を設置しに行ってくれ。唯斗君とアーサー王はこっち」
渡されたのは観測装置のような小型の円筒状のもので、わざわざこんなものを設置しに行くというのは、そんなに急ぎのものだろうか、と思っていると、ダ・ヴィンチはウインクをする。
「さあ、早く行っておいで。君たちが取り戻したものを確かめにね!」
「…行こう、マスター」
アーサーに促され、唯斗はとりあえず頷いて歩き出した。立香もマシュとともに歩き出す。
背後を一瞬振り返ると、カルデアスが青く輝いていた。地球は、その青さを取り戻したのである。