藍色の愛−3
そうしてマシュと立香とは別のエントランスに向かう。隣のアーサーとともにゆっくり廊下を歩くうちに力も入るようになったため、だんだんと歩調を速めて行く。
二人きりの廊下を歩きながら、唯斗は気になっていたことを聞いてみた。
「…あのさ、マシュのことだけど。アーサーは何があったか分かるか?」
「君はどう思ってるんだい?」
「…フォウの力かなって」
「その通りだよ」
マシュは確かに命を落としたはずだ。事実上、これは生き返ったのと同じである。それだけのエネルギーを持っているとすれば、ビーストであるフォウだけだろう。
アーサーは肯定し、フォウがビーストとしての権能すべてをエネルギーに置換してマシュを生き返らせたのだと説明してくれた。
「ってことは、ビーストIVは…」
「あぁ。比較の獣、ビーストIVは、戦わずして倒された。マシュや藤丸君、カルデアの人々の善性に触れ続け、ビーストとしての悪性を顕現させることがなかった。それは、人の性質をコピーしながら獣性を育てることが『比較』という権能だからだ」
「なるほど…」
フォウはそのビーストとしての権能をすべて失う代わりに、マシュにすべてを託した。
今や、フォウはビーストとして獲得した知性も失い、ただの小動物になっているらしい。
「…良かった、そういう優しい結末で」
「本当にね」
優しい彼女に相応しい、極めて優しい結末だ。ビーストという災厄の獣が、その悪性を放棄するほどの善性。マシュだからこその結末だろう。
すると、地上階に到達した。窓から差し込む光という異様な光景に、思わず足が止まる。
「こ、れは…」
「…なるほど。女史はこういう意図だったのか」
アーサーも驚いている。二人で窓の前に立つと、外には青空が広がっていた。広大な青空が白い雪山を照らし、陽光を反射する白い輝きが瞳に刺さる。
正真正銘、この世界の青空だ。特異点のものではない。
近くのエントランスから外に出て、敷地から雪山の方へと歩き出す。礼装のおかげで、ちょっと寒い冬の日、くらいの感覚しかない。実際にはここは南極、氷点下の世界である。
カルデアの蹄のような形の施設から少し斜面を登り、近くの切り立った岩山を上った先にある開けた場所に出る。これが指定された座標だ。マシュたちは、カルデアを挟んで反対側の岩山にいる。
眼前には、山を下った斜面の先に、多くの山々が連なって続いてくのが見える。広大な雪景色は青空に蓋をされ、見上げた青空はどこまでも高く、澄んでいた。
標高が高いからか、青空の色は深く、宇宙に近いため、どちらかといえば藍色をしている。
は、と吐き出した息は白く、アーサーは唯斗の肩を抱いて共に空を見上げた。
「…この時代の青空を見るのは、カルデアに来る前以来だから、1年9ヶ月ぶりだな」
「あぁ。君たちの空だ。君たちが取り戻した空だよ」
高く抜けるような青空を見上げていると、この空を取り戻すために戦ってきたのだと実感する。
そこで、終局特異点でのアーサーの様子を思い出す。ロマニに「後は任せてくれ」と言ったのは、ロマニがいなくなったカルデアでのことは任せてくれ、ということだったのだろう。
「…アーサーは、ロマニのこと、知ってんだな」
「……うん、そうだよ。一度、会ったことがあるんだ。思えば、君と出会う前にこの世界に来ていたんだね」
「え、そうなのか。しかもそこでばったりロマニに出会ったってことか」
「そうだよ。あれは、大きな赤い鉄橋が見える街だった」
異世界でも日本で戦い、唯斗とも日本で出会っていたアーサーは、再びこの世界の日本に転移した。
それは極めて短時間のものだったが、そこでちょうど、ロマニと出会ったらしい。
ロマニは千里眼の持ち主、ソロモン王の受肉した存在としてアーサーと接した。アーサーもそれを霊基で理解した。